(CNN) 米連邦議会議事堂襲撃から1年を迎える1月6日は、厳粛に自らを省みる日となるだろう。そう思う人がいるのもやむを得ないことだ。ところがどうもドナルド・トランプ前米大統領の考えによると、その日我々はそろって同氏に注目するべきであるらしい。本人はこの機会を使い、自身の楽しみの一つ、記者会見を満喫する心づもりのようなのだ。会見では敗北に終わった昨年の大統領選に関するうそを繰り返し、自らに同意しない仲間の共和党議員を攻撃する公算が大きい。
マイケル・ダントニオ氏
「1月6日に(フロリダ州にある別荘の)マール・ア・ラーゴで記者会見を開き、こうした論点をすべて話す予定だ。それ以上のことも取り上げる」。前大統領は声明でそう述べた。奇妙な主張とあおりネタが満載の内容で、本人が一息でまくしたてるのをそのまま筆記させたかのように読める。
こうした記者会見を開くというのは最悪の選択であり、事件で亡くなった人たちの名誉を汚すものに他ならない。当時警官らと数時間にわたる戦いを繰り広げたトランプ氏の忠実な支持者らが望んでいたのは、議会がジョー・バイデン氏の選挙戦勝利を承認するのを阻止することだった。これに対して、現在のトランプ氏の目的は2つあるように見える。選挙で不正があったとする虚偽の訴えを永続的なものにし、議事堂襲撃が「不正に操作された選挙」に対する「非武装の抗議活動」に過ぎなかったといううそで歴史を書き換えようというものだ。報道向け発表はそれを示している。そして、こうした虚偽の主張を行うことで、共和党議員に対する圧力の強化も図る。トランプ氏の掲げる別バージョンの現実と足並みをそろえるのを拒む議員には、激しい非難を浴びせるというわけだ。
どちらの論点においても、トランプ氏による人目を引く振る舞いは自信と力強さではなく、不安と混乱からくる行動であることがうかがえる。議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の動向を追っていれば、理由は誰の目にも明らかだろう。同委員会に関するニュースによると、委員らはトランプ氏とその取り巻きに焦点を絞り、彼らの刑事訴追を司法省に求める可能性を示唆している。複数の情報筋がCNNに明らかにした。その一方で、選挙結果に異を唱える集会を運営したアリ・アレクサンダー氏をはじめとする複数の主要人物は同委員会に協力している。
明らかにトランプ氏は、共和党内部での自身の立ち位置を強化したいと望んでいる。しかし、重要な存在であり続けようと努力した過去1年間を考慮に入れるなら、その影響力は限定的と言って差し支えない。確かにトランプ氏が並外れた役割を果たすことで、共和党の方向性が形作られてきた。選挙不正にまつわるうそが党内に根付き、共和党が支配的な州では投票制限につながる数々の法案が成立した。トランプ氏が先導役となり、時代は過激主義が増大する局面に入っている。それでも、同氏はもはや国家の最高位の役職には就いておらず、本人が望むキングメーカーの姿とは程遠いのが実情だ。
過去1年間を振り返れば、トランプ氏による共和党への影響力行使を意図した取り組みはばらつきのある結果となった。2020年大統領選の結果を覆そうとする州レベルでの試みはすべて失敗に終わり、テキサス州知事に強く呼び掛けて進めた選挙結果の監査を可能にする法律の制定は暗礁に乗り上げた。一方、自らが指名したペンシルベニア州の連邦議会上院議員選の候補者は、家庭内での虐待が取り沙汰されて選挙活動を停止している。またアラバマ州では上院選に臨むモー・ブルックス氏への支持を表明したものの、効果はほとんど出ていない(思い起こせばトランプ氏は17年にも同州での弱さを露呈していた。自身が選んだ上院選の候補者らは、予備選でも本選でも敗北を喫したのだ)。
このほかトランプ氏の挫折には、自ら推薦した候補者がテキサス州で行われた連邦議会下院の特別選挙で敗れたことも含まれる。また議事堂襲撃事件後、同氏の弾劾(だんがい)に賛成票を投じた現職の共和党議員らに対しては対立候補が戦いを挑んでいるが、こうした人々は現状資金集めに苦慮している。最も顕著な例は、事件を調査する特別委員会にも名を連ねるリズ・チェイニー氏(ワイオミング州選出)だ。トランプ氏と敵対する人物の筆頭ともいえるチェイニー氏だが、10月に連邦選挙管理委員会が発表した直近の資料によれば、その選挙資金はトランプ氏の推薦を受けた対立候補の10倍に上るという。
首都ワシントンでは、共和党の最有力者であるマコネル院内総務がトランプ氏から距離を置いているように見える。マコネル氏は最近、下院特別委の取り組みに言及し、「関与した参加者全員が明らかになる」ことへの関心を表明した。そのうえで「恐ろしい事件だった。委員らが見つけ出そうとしている事柄は、一般国民が知る必要があるものだと思う」と付け加えた。
トランプ氏並びに同氏のテレビ業界の同調者らは、数カ月にわたりマコネル氏に対して批判の集中砲火を浴びせてきた。最近はトランプ氏自身がマコネル氏を「最悪」と呼び、共和党上院トップの座から降ろすべきだと主張したが、同党の上院議員らにその気がないことを米政治専門サイト「ポリティコ」が伝えている。
議事堂襲撃事件から1年近くが過ぎ、「トランピズム(トランプ主義)」の現状を把握するには、本人の最近の講演イベントをのぞいてみるのも参考になる。トランプ氏はFOXニュースの元司会者、ビル・オライリー氏と各地を回る「ヒストリー・ツアー」を立ち上げたが、いくつかの会場では十分なチケットを売ることができなかった。テキサス州ダラスでは一部の参加者が、新型コロナワクチンの追加接種を受けたと話すトランプ氏にブーイングする一幕もあった。オライリー氏はトランプ氏に対し、ワクチンをめぐる自らの立ち位置に自信を持つよう同日のイベントに先駆けて伝えていたと明らかにした。
以上、選挙戦での劣勢にマコネル氏の粘り強さ、特別委の容赦ない調査、さらにチケットの売れ残った会場でブーイングを聞く衝撃といった要因がそろえば、トランプ氏が恐怖の議事堂襲撃事件から1年となる日に記者会見を計画するのも不思議はない。会見の地は、穏やかな気候のフロリダ州パームビーチ。太陽の光が降り注ぐ自前のリゾートが会場だが、今のトランプ氏にとって是が非でも必要なのはメディアの注目と一連の論争がもたらす熱気であり、自らそうした論争をかき立てる流れになるのは避けられないだろう。
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マイケル・ダントニオ氏はトランプ氏の評伝「Never Enough: Donald Trump and the Pursuit of Success」の著者。またトランプ氏の弾劾を扱った「High Crimes: The Corruption, Impunity, and Impeachment of Donald Trump」はピーター・アイズナー氏との共著である。記事の内容は同氏個人の見解です。