OPINION

有罪評決でトランプ氏の世評に傷はつくか 手掛かりは他国の事例にあり

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米国と異なり、他国では政治的リーダーに有罪が言い渡されるケースは珍しくない/Getty Images/AFP

米国と異なり、他国では政治的リーダーに有罪が言い渡されるケースは珍しくない/Getty Images/AFP

(CNN) 米国のトランプ前大統領が有罪評決を受けた。

ニューヨーク州地裁の陪審団は先月30日、トランプ氏が口止め料の支払いを指示してポルノ女優、ストーミー・ダニエルズ氏との不倫関係を隠蔽(いんぺい)し、2016年大統領選を有利に展開しようとしたとの判断を下した。評決は、米国史上特異な出来事だった。

ただ世界を見渡せば、事情は変わってくる。国の指導者(大半は元指導者)に対する刑事裁判及び有罪判決は安定かつ成熟した民主主義国で過去に起きており、かつての専制国家でも同様だ。そうした事例の中には、トランプ氏のケースに洞察を与えるものもある。そこに見られるように、元指導者は刑事上の有罪判決を受けた後で力を失うこともあるが、必ずしも表舞台を去るとは限らない。有罪を宣告されたリーダーたちの実績から分かるのは、彼らのその後を予測する試みがいかにリスクを伴う行為であるかということだ。

該当する事例を数え上げればほとんどきりがない。アルゼンチンでは22年、当時副大統領で大統領経験者でもあるクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏が道路工事の契約に端を発する汚職の罪で禁錮6年を言い渡された(本人の年齢を考慮すると、実際に服役することはないと見られている)。

今年2月には、オーストリアのクルツ元首相が議会での偽証により執行猶予付きの懲役8カ月の有罪判決を受けた。欧州保守派の「神童」を襲った突然の転落劇だが、クルツ氏は控訴の意向を表明している。17年には韓国で、朴槿恵(パククネ)元大統領が奇妙な汚職スキャンダルで弾劾(だんがい)され、後に刑事裁判の有罪判決を受けた。疑惑には友人で相談相手となっていた人物の影響が関与していた。

海外の背景事情はそれぞれ異なり、全てトランプ氏のケースとは違っている。それでも以下の問いに関しては、強く答えを求めていく必要がある。かつてのリーダーたちにとって自らへの有罪宣告は政治的な助けとなるのか、それとも痛手となるのか? 彼らの支持者はどのように反応するのか? 国の司法制度に対する世間の信頼は損なわれるのか、それとも強まるのか?

米首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク、フリーダム・ハウスは、各国を自由と民主主義に基づいてランク付けしている。同団体が「自由」と見なす国々のうち、00年以降現職もしくは元指導者を起訴した国は全体の43%に上るという。「これは相当の数字だ。つまりトップの指導者を訴追することは、民主主義国において珍しいことではない」。フリーダム・ハウスの幹部を務めるニコール・ビビンズセダカ氏は、CNNの取材に答えてそう述べた。「それについて人々が知るのは重要だ。なぜなら人々は往々にして、こうした事態が米国をある種の停滞した後進国に変えてしまうと口にするから。しかしこれは現状の制度が機能している兆候なのであり、他の多くの民主主義国でもそうした制度はうまく回っている」

フランス、イタリア、ブラジルの3カ国で起きたことは、とりわけ示唆に富んでいる。

パリの裁判所に出廷するフランスのサルコジ元大統領/Bertrand Guay/AFP/Getty Images
パリの裁判所に出廷するフランスのサルコジ元大統領/Bertrand Guay/AFP/Getty Images

世界で最も早く成立した民主主義国の一つ、フランスでは、ニコラ・サルコジ元大統領が21年に違法な選挙活動費の支出で有罪判決を受けた。量刑は禁錮1年だが、このうち6カ月は執行猶予がついた。実際には収監されず、足首に電子ブレスレットを付けた状態での自宅軟禁を認められた。

フランスは、元指導者の訴追がどれほどうまく行えるかを示す「非常に良い例」だとビビンズセダカ氏は指摘した。「過去15年でフランスは元大統領2人と元首相1人を汚職で訴追し、有罪判決を言い渡した」という。このうちジャック・シラク元大統領は11年、パリ市長時代の職員のいわゆる架空雇用21件に関連して起訴された。一部には「制度が持つ先入観を露呈する、もしくは制度自体が崩壊するとの懸念の声もあったが、システムに対する世間の信頼の水準は過去10年にわたり安定を保った」と、ビビンズセダカ氏は語った。実のところ、サルコジ氏は別の裁判も抱えている。来年には07年の大統領選でリビアの故カダフィ大佐から違法な資金援助を受けていたとする疑惑(本人は否定)を巡る裁判に臨む予定だ。

度重なるスキャンダルに見舞われたイタリア政界の大物、ベルルスコーニ氏/Yara Nardi/Reuters
度重なるスキャンダルに見舞われたイタリア政界の大物、ベルルスコーニ氏/Yara Nardi/Reuters

イタリアでは、生前の自信に満ちた言動で知られる富豪のメディア王、シルビオ・ベルルスコーニ氏が何度も起訴されている。もし読者がストーミー・ダニエルズ氏の件で内容の生々しさに衝撃を受けているのなら、ベルルスコーニ氏の事例を考えてみよう。同氏は「自身のいわゆるセックスパーティーに招いた24人に金銭を支払い、裁判で虚偽の証言をさせたとして告発された。彼らは大半が若者だった。この裁判でベルルスコーニ氏は、17歳のモロッコ人のナイトクラブダンサーと金銭を介して性行為をしたとの罪に問われた」。当該の刑事事件について、ロイター通信はそう報じている。

ベルルスコーニ氏は13年、未成年者買春の罪などで有罪判決を受け、禁錮7年の刑を言い渡されたが、翌年の控訴で無罪を勝ち取った。23年には関連する証人買収を巡る裁判の有罪判決も覆った。

12年には脱税の裁判でも有罪となっている。所有するメディア会社による1990年代の放映権購入に絡む罪で禁錮4年を言い渡されたが、06年の恩赦法の下で1年に減刑された。これとは別の禁錮1年の有罪判決は、捜査当局が盗聴した政敵の電話の内容を弟の経営する新聞社に違法に漏らしたことで受けた。当時70歳を超えていたため、収監の代わりに社会奉仕活動を行うことが認められた。活動場所はミラノ近郊にあるアルツハイマー病患者向けのホスピスだった。

こうしたことのいずれも、ベルルスコーニ氏を抑えつけはしなかった。崩壊状態に陥ったイタリアの政界で同氏は復活を遂げ、右派の指導者としての地位に返り咲いた。自身の率いる政党フォルツァ・イタリアは17年の市長選で躍進。18年の国政選挙では14%の得票率で右派連合に勝利をもたらした。同連合はこの後ポピュリスト政党の五つ星運動と提携して政権を担う。

イタリアの右派の中でベルルスコーニ氏の影は徐々に薄くなり、代わってマッテオ・サルビーニ氏、さらには現首相のジョルジャ・メローニ氏が台頭した。それでもメローニ氏を権力の座に押し上げた22年の総選挙の際、ベルルスコーニ氏はメローニ氏率いる連合の有力人物だった。本人は昨年、86歳で死去した。

刑務所から釈放され、支持者に肩車されるブラジルのルラ氏/Nelson Almeida/AFP/Getty Images
刑務所から釈放され、支持者に肩車されるブラジルのルラ氏/Nelson Almeida/AFP/Getty Images

ブラジルのケースもトランプ氏との類似点を提供してくれるかもしれないが、いくつか重要な違いがある。むしろ返り咲きという意味ではこちらの方が一段と衝撃的だ。03~11年に大統領を務めた後、ルラことルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ氏は、「洗車作戦」の名で知られる汚職捜査によって有罪判決を受けた。一連の不正なリベート、収賄を対象にしたこの捜査は、中南米を対象に広く行われ、ブラジルの政界を揺るがした。

国営石油会社ペトロブラスに絡むスキャンダルが浮上したのを受け、ルラ氏は17年に汚職とマネーロンダリング(資金洗浄)で有罪になった。580日の収監中は、支持者らが房の外でキャンプをしていた。ルラ氏は19年に釈放され、21年には管轄権の問題から有罪判決が無効となった。

ルラ氏の裁判を担当した判事が、検察側とテキストメッセージを交換していたことも発覚した。判事はその後、保守派のボルソナーロ大統領により司法相に任命された。自由の身となったルラ氏は22年の大統領選に出馬。ボルソナーロ氏と対決して勝利した。

ブラジル社会の一部は、ルラ氏の有罪判決を「前向きなもの」と評価し、「法律が万民に適用される」兆候だとみなした。ジェトゥリオ・バルガス財団サンパウロ校(FGV)国際関係学部のオリバー・ストゥエンケル教授は、CNNとのインタビューでそう分析した。他方、手続き上の間違いを指摘しつつ、洗車作戦に関しては政治的に偏向していると受け止める人々もいた。左派を標的にした作戦というのが彼らの認識だった。「加えて強硬な(ルラ氏の)支持者たちが即座に発言した。これは完全に政治的動機に基づく動きだと」(ストゥエンケル氏)

政治化はブラジルの司法制度の弱点と見なされていると、ストゥエンケル氏は説明した。ルラ氏の当初の有罪判決を支持する人々は、後の判決無効を政治的動機によるものと考えた。それでも有罪判決は「実際のところボルソナーロ氏と戦った(22年の)大統領選の活動中、ルラ氏にマイナスの影響を及ぼさなかった。なぜならその時までに、中道派はボルソナーロ氏がブラジルの民主主義にもたらす脅威に懸念を抱いており、その懸念はルラ氏の復活で汚職が再度横行するようになることへの不安よりも重大なものだったからだ」。ボルソナーロ氏が持つ右派ポピュリストとしての極端さのために、ルラ氏は「大衆目線での評価をある意味回復することができた」と、ストゥエンケル氏は語った。

米国のトランプ前大統領は5月30日に有罪評決を受けた/Mark Peterson/Pool/Getty Images
米国のトランプ前大統領は5月30日に有罪評決を受けた/Mark Peterson/Pool/Getty Images

トランプ氏は、自らを政治のアウトサイダーと位置づける。大衆に対し、問題は自分ではなく制度の方にあるのだと信じ込ませてきた。果たして大衆はそれに同意するだろうか? 意見は分かれている。

マンハッタンでの評決の後、ロイター通信とイプソスの行った最初の世論調査によると共和党支持者の14%、無党派層の58%が、重罪で有罪になった場合はトランプ氏に投票するつもりはないと回答した。続いて、CNNで世論調査を担当するアリエル・エドワーズレビー記者は「設問で、有権者に対し自分たちの選択がどのような形でニュースの出来事に影響されるかを問う内容は、回答や解釈が難しいことで知られる。また一般的に、世論が動く可能性を誇張するものともなる」と書いた。評決が司法制度をどれだけ反映しているかについて、見解は党派に沿って二極化した。評決の正当性や政治的動機を巡っても同様だった。

トランプ氏はベルルスコーニ氏と同様、表面上スキャンダルの影響を受けないことを証明するかもしれない。あるいはブラジルのルラ氏のように、有罪評決を有権者らが別の観点で捉えるのかもしれない。それぞれの党派性の度合いやトランプ氏との個人的なつながりによって、有権者らの評決に対する見方は変わってくる。はたまたサルコジ氏やシラク氏のように、裁判自体が単なる法律の問題でしかなくなる可能性もある。

刑事上の有罪評決はトランプ氏の政治的立場に傷をつける公算が大きいように思えるが、実際のところは分からない。他国ではかつての国家的指導者が、服役を終えてからでさえも復活を果たしている。トランプ氏の支持者らはこれまで多くの罪を許してきた。聖書に記されたものであれ何であれ。どうもそれはトランプ氏が自分たちの味方だと信じていることが理由のようだ。一部の人たちにとっては、そうした政治的独自性こそがトランプ氏の繰り出すあらゆる挑発や虚偽、思慮を欠いた発言よりも重要であり続けているらしい。同氏の一時政権で起きた官僚制の大混乱と比較しても、より重要だとみているようだ。

米国の司法制度に対する国民の信頼に関しては、フリーダム・ハウスのビビンズセダカ氏がこう指摘した。他の公人たちが評決についてどのように語っているかが、一つの重要な要素になると。大統領経験者の訴追と有罪評決を受け、「あらゆる領域の」政治指導者らは「自分たちが民主主義国に暮らしている」ことを確認する機会を得る。そこでは法律が万人に対して等しく適用される。

「それこそがまさしく、社会契約の存在に他ならない」「政治指導者らはこうした制度について、今後どのように発言するのかを選ぶことができる」(ビビンズセダカ氏)

クリス・グッド氏は国際情勢を担当するCNNのプロデューサー。これまで政治専門紙ザ・ヒルやABCニュースなどで米国政治や外交政策に関する報道、分析に携わってきた。記事の内容は同氏個人の見解です。

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