トランプ政権の「ガザで配布のコンドームに78億円」主張が疑わしい五つの理由 CNN検証
ワシントン(CNN) 米ホワイトハウスのレビット報道官は28日、トランプ政権が発足してから初めての記者会見を開き、トランプ大統領が「途方もない税金の無駄遣い」を阻止したと発表した。同氏によると、政権は対外援助一時停止措置を利用して「パレスチナ自治区ガザ地区で配布するコンドームに5000万ドル(約78億円)の税金が使われようとしていた」計画を阻止したという。
レビット氏のこの発言は世界中で話題になった。しかし、この説が真実かどうかを疑う理由が少なくとも五つある。
まず、ホワイトハウスはこの話の証拠を示していない。
昨年発表された詳細な連邦政府報告書によると、バイデン政権下の2021年から23年の3年間、米国際開発局(USAID)は中東全体でのコンドーム配布に一切資金を投じていない。
USAIDの全世界でのコンドーム配布のための支出総額は5000万ドルをはるかに下回る。連邦政府の報告書によると、USAIDは23年に全世界で男性用コンドーム約710万ドル相当、女性用コンドーム約110万ドル相当を提供または資金提供しているが、その大部分はアフリカ諸国向けだ。
言い換えれば、レビット氏は、23年の世界全体での支出の6倍以上を、米国からは従来コンドームを受け取っていない、人口約210万人の小さな1地域に提供することをバイデン政権が決定したと主張していたことになる。
バイデン政権でガザ支援に取り組んだ元高官はCNNに対し、レビット氏の話は「作り話」だと語った。
また、国務省はレビット氏の主張に同調していない。ホワイトハウス当局者は、国務省のブルース報道官のSNS投稿に言及している。ブルース氏はこれらの投稿で、トランプ氏の対外援助の一時停止が不当な支出をいかに阻止したかを具体的に例示していた。
しかし、ブルース氏はガザ地区のコンドームのための5000万ドルについては言及しておらず、コンドーム配布の支出がどの程度阻止されたかについては曖昧(あいまい)だった。同氏は「例1:コンドーム。避妊のための資金を含む、ガザ地区の請負業者への1億200万ドルの不当な資金提供を阻止した」と書いているが、1億200万ドルの資金のうち、避妊、ましてやコンドームのためにどれだけの金額が意図されていたのかは明らかにしなかった。
ブルース氏は28日、記者団に宛てたメールで、1億200万ドルを受け取るはずだった団体は、ガザ地区で二つの野戦病院を運営する米国を拠点とした非営利組織、インターナショナル・メディカル・コープだと述べた。
同組織は29日、CNNへの声明で、イスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けた23年10月7日以降、ガザでの活動のためにUSAIDから約6800万ドルを受け取ったと述べた。米国の資金は二つの病院で月間約3万3000人の民間人の「救命医療」に充てられており、「コンドームの調達や配布には使われていない」としている。
国務省当局者は29日、CNNに対し、トランプ氏が停止した同団体への資金には「家族計画、緊急避妊薬、性感染症予防のための資金も含まれている」と主張する追加声明を発表した。
ブルース氏と同様、この声明でもレビット氏の主張が繰り返されることはなく、コンドームに関する金額はまったく示されていない。
レビット氏の説には、疑問を呈する専門家もいれば、単に間違っていると指摘する専門家もいる。米国のガザ援助と世界の保健援助の専門家は、米国がガザでのコンドーム配布に5000万ドルを費やすことを計画していたという主張に困惑を示す。
USAIDと提携している非営利の援助団体アネラの広報担当者、スティーブ・フェイク氏は「周囲に尋ねたが、これが何を指しているのか誰も分からない」と述べた。
フェイク氏は、アネラの取り組みについて、全体として5000万ドルで、ガザへの米国の援助総額のかなりの割合を占めていると話す。しかしこうした取り組みの中でコンドームを購入するということは全くないという。
ジョージタウン大学世界保健政策・政治センター所長のマシュー・カバナ氏は、レビット氏の主張を詳しく調べた結果、「ガザに送るコンドームに5000万ドルなどということはあり得ない。これはどう見ても事実誤認だ」と述べた。
また、バイデン政権とオバマ政権下でUSAIDの職員を務めたジェレミー・コニンダイク氏は、「これはまったくのうそだ。完全にねつ造したか、スプレッドシートの読み方を知らないかのどちらかだ」と述べた。