緊張高まるチベット――10年ぶりの現地取材で見えたもの
チベット自治区のペンパ・タシ副主席と会見した際は、難しい質問も投げかけることができればと思っていた。だが、チベットの誰もが幸せで満足していると同氏が80分間にわたり一方的に話すなか、取材班は黙って聞き続けることを余儀なくされた。
インドとの国境沿いにあるニンティでは仏教僧院を訪問したいと要請したが、近くに僧院はないとの答えだった。だが少し検索しただけでも、僧院の写真を掲載した中国国営メディアの2週間前の記事が出てきた。
チベットの日常生活を追っている人々にとっては、抗議活動は再燃する一歩手前だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの東アジア担当責任者、ニコラス・ベクリン氏は「チベットは、政治的・宗教的な抑圧が最も厳しい中国の地域のひとつだ」と指摘する。
緊張の主な要因となっているのは漢族の流入をめぐる懸念だ。研究者によると、1964年にチベットにいた漢族はわずか3万9500人。人口の3%以下だった。2010年の国勢調査では、漢族の数は24万5000人となっている。
これは人口の10%以下だが、漢族の商人らは主にラサに住み、多くのビジネスを支配しているほか高給の仕事を独占。チベット族の怒りを強める結果となった。