緊張高まるチベット――10年ぶりの現地取材で見えたもの
中国政府はチベットを変革するため、インフラなどを中心に多額の投資を行ってきた。取材では、ラサとニンティをつなぐ多車線の新高速道路が建設されているのを目撃した。取材班は泥だらけの、穴の開いた道路を小型バスで進んだが、高速道路が完成すれれば、9時間の移動時間が半分になるという。
多くのチベット族は依然として極めて貧しく、こうした改善を歓迎している。ただ、負の側面もある。伝統的な遊牧民の生活様式が消滅しつつあるのだ。チベット族は漢族ほど成長の恩恵に浴していないとの不満の声も上がっている。
ラサでのある午後、取材班は昼休みの間に政府の世話役を後に残し、滞在先のホテルからそう遠くない裏通りに入っていった。
そこで会ったのは、1度も学校に通ったことがないと語るチベット族の29歳の労働者だ。男性は以前より収入は増えたとしつつも、漢族の同僚に比べると少ないと不満を漏らした。全く同じ仕事やっている場合でも、チベット族の給料は漢族の3分の2だという。
これはチベット族が直面するジレンマの一例だ。そこでは中国政府の統治をめぐる不満と今より楽な暮らしを求める思いが交錯している。
チベットを訪れる中国人観光客が増加するなか、多くのチベット族は自分たちの文化が脅かされているとも感じている。国営メディアによると、去年の観光客数は1700万人と10年前に比べ急増した。当局者によれば、2020年までには3500万人に増加する見込みだという。