ハントケさんのノーベル文学賞受賞に怒りの声、「虐殺否定論者」の指摘
(CNN) オーストリアの作家ペーター・ハントケさんにノーベル文学賞を授与した決定に反発の声が上がっている。旧ユーゴスラビア紛争当事国の関係者からは、「ジェノサイド(集団虐殺)否定論者」への授賞は「恥ずべき」ことだとの指摘も出た。
1942年生まれのハントケさんは、1990年代のユーゴ紛争を巡る発言や同紛争に絡み戦争犯罪で訴追されたセルビアの故ミロシェビッチ大統領と近い関係にあったことで批判を受けた。
2006年に行われたミロシェビッチ氏の葬儀では弔辞を読んだ。ハントケさんは同年のインタビューで自身の判断を擁護し、ミロシェビッチ氏は「英雄ではなく悲劇の人間だ」「私は作家であって裁判官ではない」と語っていた。
授賞決定を受け、コソボのシタク駐米大使はツイッターで「あきれた判断だ」と反発。「ジェノサイド否定論者やミロシェビッチの擁護者を称賛すべきではない」とも述べた。
さらに「私たちは人種差別主義への感覚がまひし、暴力に鈍感になり、安易な融和に流れるあまり、集団虐殺マニアのねじれた政策への同意と奉仕を看過してしまうのか」と問いかけた。
アルバニアのチャカイ外相代行も、授賞決定を「不名誉な恥ずべき行為」と評し、「人間の経験を豊かにする文学の永遠の美と力を心から信じる者として、そして民族浄化とジェノサイドの被害者の1人として、この判断にあぜんとしている」とツイートした。
ロイター通信によると、ハントケさんは受賞の連絡後に記者団の取材に応じ、「スウェーデン・アカデミーは勇気ある決定を下した」「奇妙な自由を感じる。何と言って良いか分からないが、無罪を言い渡されたかのような自由だ。それは真実ではないが」と語っていた。
CNNはノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーにコメントを求めた。ノーベル財団からはノーベル賞を授与する団体の独立した選考にコメントしないとの声明を受け取った。
スウェーデン・アカデミーは米紙ニューヨーク・タイムズの取材に、選考委員会は文学的、審美的な観点で選考を行っており、「文学の質と政治的考慮との釣り合いをとることはアカデミーの義務ではない」と述べた。