プーチン氏から見た世界、よみがえる中世の物語
聖職者間の火種
キリル総主教がプーチン氏の戦争を支持するのは、自身が最近ウクライナ正教会に対する権力を失ったためでもある公算が大きい。
ウクライナ正教会は、ロシア正教会との間で数世紀にわたる特別な歴史的関係を結んできた。この点で他国の独立した正教会とは一線を画す。ジョージアやキプロス、ギリシャ、ルーマニアなどにはそれぞれ独自の正教会があり、東方正教会の一部を形成している。
2018年、クリミア侵攻に続きウクライナ正教会の一部の教派はロシア正教会との関係を断ち切った。この行動がキリル総主教の怒りに火を付けた。
「キリル総主教にとっては生きるか死ぬかの問題だった」と、ミヒェルス氏は指摘する。
今回のウクライナ侵攻以降は、前出のアムステルダムのロシア正教会が、戦争に対する立場を理由にキリル総主教並びにモスクワ総主教庁との関係解消に動いた。
また300人余りの正教会の聖職者らも、不服従の批判を受けるリスクを冒して、即時停戦を呼び掛ける書簡に署名した。この中にはロシア国内で生活、活動する聖職者も多く含まれる。
署名に加わったロシア正教会の聖職者の一人によれば、書簡には「戦争」という単語が4回使われている。現在、この単語をロシアのメディアが活字で使用するのは違法とされる。
まだモスクワ総主教庁との関係を維持しているウクライナ正教会の司教らの団体は、キリル総主教に対してロシア政府に停戦を求めるよう訴えている。