ゼレンスキー氏、キッシンジャー氏の和平交渉案を非難 「宥和政策」と指摘
(CNN) ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、キッシンジャー元米国務長官がロシアとの和平交渉では侵攻開始前のドンバスに存在した「接触線」に沿った国境策定を目指すべきだと示唆したことを厳しく批判した。
キッシンジャー氏の発言は24日に世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)にビデオ出演した際に出たもの。
これについてゼレンスキー氏は25日の動画メッセージで、「ロシアが何をしようと『ロシアの利益を考慮しよう』と言う人が出てくる。今年のダボスでもそうした発言が聞かれた」と述べ、ロシアによるミサイル攻撃やウクライナ国民の殺害、ブチャやマリウポリの惨状、都市の破壊、「選別キャンプ」での殺害や拷問などに言及した。
そのうえで「ロシアはこれら全てを欧州で行ってきた。それにもかかわらず、例えば今年のダボス会議ではキッシンジャー氏が遠い過去から現れ、ウクライナの一部をロシアに譲渡すべきだと主張している」と指摘した。
キッシンジャー氏は発言の中で、「交渉は容易に克服できない混乱や緊張が生まれる前、今後2カ月の間に始める必要がある。理想的には境界線は戦争前の原状に戻すべきだ」と述べていた。ウクライナはドンバスとクリミア半島の大部分の放棄に同意すべきだとの考えを示唆したものとみられる。
これに対し、ゼレンスキー氏はキッシンジャー氏の見解をナチス・ドイツに対する1938年の宥和(ゆうわ)政策になぞらえた。
「キッシンジャー氏のカレンダーは2022年ではなく1938年のままであり、ダボスではなく当時のミュンヘンの聴衆に向け話をしていると考えているようだ」と指摘。38年当時15歳だったキッシンジャー氏の家族がナチス・ドイツから逃れたことにも言及した。
「偉大な地政学者」が必ずしも普通の人々に目を向ける訳ではないとも述べ、「彼らが平和の錯覚と引き換えに譲渡を提案する土地には何百万人もの普通のウクライナ人が実際に暮らしている」と指摘した。