英裁判所、米外交官の妻に執行猶予判決 危険運転で英国人の若者死亡
(CNN) 英ロンドン市内で交通事故を起こして19歳の英国人男性を死亡させた罪に問われた米国人のアン・サクーラス被告に対し、英高等法院は8日、禁錮8カ月、執行猶予1年の判決を言い渡した。
サクーラス被告は今年10月、不注意な運転で19歳のハリー・ダンさんを死亡させた罪を認めていた。
事故は2019年8月に発生。サクーラス被告は夫が米外交官として勤務していた米軍基地前で、道路の反対側を走行してダンさんのバイクに衝突した。
ダンさんの母のシャーロット・チャールズさんは、3年以上もサクーラス被告の訴追を求め続け、息子の死は決して無駄にしないと誓ったと法廷で証言。「病院でハリーに、私たちが公正を勝ち取ると約束した。母親は息子との約束を決して破らない」と語った。
チャールズさんはさらに、ハリーさんの双子の兄弟のニールさんも大きな打撃を受けていると涙ながらに訴え、「ハリーが死んだ時、失った息子は1人ではなかった。私はニールも失った。彼は抜け殻のようになっている。彼がいつか恐ろしいことをして、彼まで永遠に失ってしまいそうで身がすくむ」と打ち明けた。
検察によると、サクーラス被告が運転する車は道路の反対側を350メートル、26秒間走行し、ダンさんに衝突。ダンさんはサクーラス被告の車の前に投げ出されてはねられ、乗っていたバイクは炎上した。
重傷を負ったダンさんは駆け付けた救急隊に「僕を死なせないで」と何度も訴えていた。
高等法院のチーマグラブ裁判官はサクーラス被告に対し、英国に戻って判決言い渡しの場に出廷するよう求めていたが、被告は出廷せず、裁判所の許可を得てビデオ経由で姿を見せた。
判決言い渡しにあたってチーマグラブ裁判官は、サクーラス被告の雇用主である米政府から、サクーラス被告が英国の法廷に出廷すれば、「米国の重大な利益が危険にさらされる」と告げられたと説明。サクーラス被告に「それ以上の情報を公開する自由はない」と文書に記載されていたことを明らかにした。
サクーラス被告側は、外交特権で訴追は免除されると主張して、同被告は事故の数週間後に英国から出国した。これに対して英国側は、危険運転で死亡事故を起こしたとしてサクーラス被告の引き渡しを求めたが、米国側がこれを拒み、両国間に緊張が生じていた。
サクーラス被告は、弁護士が代読したコメントの中で「私が生じさせた苦痛について心から申し訳なく思う」と述べ、ダンさんのことを思わない日は1日もないとしている。
弁護士によると、ダンさんの死を受けてサクーラス被告はメールや電話で殺人の脅迫を受けるようになり、一家で転居を強いられたという。
チャールズさんは、息子との約束を果たすことができて満足していると記者団に語り、「アン・サクーラスは生涯にわたり犯罪歴をもつ。本人も米政府もそうなるとは思っていなかった」と強調した。