ごく最近では尹大統領が、北朝鮮の脅威が増した場合には米国の戦術核兵器を朝鮮半島に再配備するか、あるいは韓国が「独自の核能力」を保有するという考えを口にした。米国政府はいずれの案もきっぱりと否定している。尹大統領は今月、米韓政府が合同核演習を検討していると発言したが、同じ日にそうした協議の存在を質問されたジョー・バイデン大統領はただ一言、「ノー」と答えた。
尹大統領の発言を受け、米国防総省の報道官を務めるパット・ライダー准将は、拡大抑止戦略に対する米国の責任を改めて強調し、「(戦略は)今日まで機能してきた。非常に良く機能している」と述べた。
今月2日に報道された朝鮮日報とのインタビューで、尹大統領は米国の確約について「それだけではわが国民を納得させるのは難しい」と述べた。
だが先週ダボスのサイドイベントで行われた米紙ウォールストリート・ジャーナルとのインタビューでは、尹大統領は「米国の拡大抑止を完全に信頼している」と述べ、これまでの発言を引っ込めた。
一貫性のない発言は、議論のどちら側の懸念も払拭(ふっしょく)するには至らない。
間を取る?
19日、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は間を取ったと思われる案を提案した――「現在の情勢で、同盟国間の信頼関係のさらなる強化を後押しする」ような「合同核計画の枠組み」を策定するという案だ。
CSISいわく、こうした枠組みは「核兵器使用に関するNATO(北大西洋条約機構)の計画グループと似ている。二国間および(日本も加えた)三カ国間で計画を策定しつつ、依然米国の手中にある形になる」という。
だがCSISは「米国の戦術核兵器を朝鮮半島に配備することや、韓国による自国の核兵器の購入を許容すること」を支持してはいないと明言している。
他にもカリフォルニア州にあるミドルベリー国際問題研究所のジェフリー・ルイス教授といった専門家が、合同計画や合同演習は「核兵器や核共有よりも現実的な選択肢」だと考えている。
尹大統領率いる保守政党の一部は、これでは全く足りないと考えている。こうした人々は、核兵器を持たない韓国は核で武装した北朝鮮から脅しを受けていると考え、最低でも米国の核兵器の朝鮮半島再配備を望んでいる。
こうした人々は失望せざるを得ない状況にあるようだ。米国政府は1991年、数十年にわたって配備されてきた戦略兵器を韓国から引き揚げたが、現在方向転換を検討している兆候はない。
「米国の核兵器を北朝鮮に戻すのは、軍事的に意味がない」と、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー氏も語っている。
「彼らが自国から取り去り韓国の掩体壕(えんたいごう)に設置する武器プラットフォームを見つけ、絞り込むのは非常に困難だ。それは北朝鮮の格好の標的になり、それは自分たちの能力を弱めることを意味する」