包囲された陣地で死亡、アウジーイウカ陥落時に負傷兵らが発した絶望のメッセージ
(CNN) ウクライナ東部ドネツク州のアウジーイウカは約10年にわたり、ウクライナ政府とロシア政府の前線だった。2年近く前にロシアがウクライナへの全面侵攻に踏み切ってからは、数カ月間激戦が繰り広げられてきた。
同市からの撤退は、時間のかかるものでは全くなかった。ウクライナ軍は17日に同市を放棄し、ロシア軍にここ数カ月で最も重要な勝利を手渡したが、撤退自体は迅速かつ無慈悲に遂行された。
「300人(の負傷兵)は置いていけ」。ある兵士はそう命令されたという。「そして何もかも焼き払え」
ロシア軍がアウジーイウカにロシア国旗を掲揚した後、逃げ出せなかった複数の負傷兵を巡る恐ろしい話が浮上した。後にこの兵士らは、ロシア軍が陣地に迫る中で殺害された。
現地にいたウクライナ軍兵士は第110独立機械化旅団に所属。ロシア軍が先週アウジーイウカで前進する中、彼らの陣地は激しい攻撃を受けた。
陣地にいた兵士の一人、ビクトル・ビリアク氏によれば、廃虚と化した町から兵士らは必死の脱出を試みた。
ビリアク氏はインスタグラムへの投稿で、脱出経路の危険さを説明。外の視界がない中、生き残りを懸けて1キロの戦場をドローン(無人機)に誘導されながら移動したと示唆した。敵は砲撃を仕掛けており、アウジーイウカに続く道はウクライナ兵の遺体でいっぱいになったという。
やがて、司令官から負傷兵の撤退はないと無線で告げられた。6人がそこに残された。
「彼らの絶望、悲運は、この先もずっと我々と共にある。最も勇敢なのは、戦死した者たちだ」(ビリアク氏)
敵に包囲された兵士たちの中に30歳の衛生兵、イバン・ジトニク氏がいた。第110独立機械化旅団と同様、ジトニク氏もアウジーイウカで2年近く戦っていたが、深手を負い動けなくなった。
15日、同氏は姉妹のカテリナさんをはじめとする家族にビデオ通話で連絡を取った。その内容は以降、ウクライナ国内やソーシャルメディア上で広く伝えられた。
カテリナさんがそこに味方はいるのか、それとも一人なのか尋ねると、ジトニク氏は「皆いなくなった。全員退却した。車両に乗せてもらえるという話だ。両脚を骨折し、背中に砲弾の破片も受けている。何もできない」と答えた。
また陣地には6人の兵士がいるが、そのうち4人は自分と同様に歩くことができないという。
カテリナさんは泣きながら「どうすればいいのか分からない。誰に連絡すればいいのか」「私には分からない。誰があなたを乗せてくれるの?」と問いかけた。
実際には、誰も乗せなかった。
後にウクライナメディア「Slidstvo.info」のジャーナリストがカテリナさんに取材したところによれば、兵士らは避難用の車両を1日半待っていた。誰も来ないことを悟ると、彼らはあらゆる人に電話をかけ始めたという。ジトニク氏から電話があった時、本人はひどい傷を負っていて味方から手当てを施されていたが、医薬品も食料も底を突きかけている状況だった。
同じ15日のその後、別の親類がジトニク氏とビデオ通話で連絡を取った。ジトニク氏によると、ロシア軍が自分たちを連れ出すことで司令部が合意したという。味方には自分たちのもとにたどり着くつもりがないためだとした。カテリナさんによれば通話中、ジトニク氏らが閉じ込められている陣地にロシア軍の兵士らが入ってくるのが映ったとされる。
CNNはその動画を確認していない。
同じ陣地に閉じ込められた別の兵士、アンドリー・ドゥブニツキー氏の妻のリュドミラさんは、Slidstvo.infoに対し、15日の午前10時に夫と話したと説明。ドゥブニツキー氏 は脚の付け根を負傷してよろめいていた。冗談を言おうとしていたが、泣き始めたという。その後午前0時に届いた最後のテキストメッセージには、捕らえられることになるとの内容が記してあった。
米東部時間2月15日午後3時時点のデータ。赤とピンクの「Assessed」は、ロシアが制圧または前進したことを示す信頼できる情報、独立した立場から検証可能な情報を戦争研究所(ISW)が受け取ったことを意味する。「前進」はロシア軍の活動や攻撃が実施されている地域を指す。破線で示された「Claimed」は、制圧あるいは反転攻勢が起きているとの情報があるものの、ISWは裏付けを取ることも、虚偽と証明することもできない地域を指す/The Institute for the Study of War with AEI’s Critical Threats Project; LandScan HD for Ukraine, Oak Ridge National Laboratory Graphic: Henrik Pettersson and Renée Rigdon, CNN
16日、ロシアの軍事ブロガーが投稿した動画には、複数の遺体が映っている。画面にはロシア陸軍の旅団の紋章が入っている。同旅団については、アウジーイウカ南部の上記の陣地周辺に2日前に進軍していたとする説明が多くなされている。
画面の文字情報によれば、動画はアウジーイウカの「軍の施設」で16日に撮影されたもの。動画は現地のウクライナ軍兵士をナチスと言及し、自分たちの手に落ちた彼らには「死が待つのみ」だと述べている。
前出のカテリナさんは、動画に映る兄弟のジトニク氏の遺体に気付いた。本人の服装と手にした水筒で分かったという。ロシア軍はこれらの遺体を陣地から運び出すところだった。
ドゥブニツキー氏の妻のリュドミラさんは、動画に映ったタトゥーで夫の遺体に気付いたという。リュドミラさんによれば、ドゥブニツキー氏は2022年3月8日に召集され、以後ずっとアウジーイウカにいた。娘は召集時、生後4カ月だった。
ウクライナ軍第110独立機械化旅団はCNNの取材に対し、当該の事案についていかなる詳細も確認できていないと説明。現在何が起きたのか確認を試みていると述べた。
著名なウクライナの軍事ブロガー、ユーリイ・ブトゥソフ氏は、当該の陣地に取り残されたウクライナ軍兵士6人全員の氏名を投稿。彼らは負傷のため自力で動けない状態だったが、陣地が完全に包囲されていたため、救出用の車両を送ることができなかったと説明した。
兵士らが死亡した経緯は不明だが、ブトゥソフ氏はロシア軍が負傷のため動けないこれらの兵士を処刑したと非難する。
ウクライナ検察は、当該の負傷兵の件について捜査を立ち上げたことを明らかにした。「戦争の法と慣習に違反する計画的殺人」を念頭に置いているとしている。
第110独立機械化旅団は19日の声明で、陣地の完全包囲を受け、負傷兵を脱出させるべくロシア軍と交渉を試みたと述べた。ロシア軍は後の捕虜交換を条件に負傷兵の避難に合意したものの、後に公開された動画から負傷兵らの殺害を知ることになったと、同旅団は説明する。
「戦争は残酷だ。我々は自由のための戦いに大きな犠牲を払っている」(同旅団)
CNNはアウジーイウカでのロシア軍に対する告発について、同国国防省にコメントを求めている。