ウクライナ越境攻撃のクルスク、第2次大戦では独ソ戦の激戦地

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クルスクの戦いに従軍するソ連の歩兵。クルスクの戦いは1943年7月5日から8月23日までドイツ軍とソ連軍の間で東部戦線にて行われた第2次世界大戦中の戦闘だった/Laski Diffusion/Hulton Archive/Getty Images

クルスクの戦いに従軍するソ連の歩兵。クルスクの戦いは1943年7月5日から8月23日までドイツ軍とソ連軍の間で東部戦線にて行われた第2次世界大戦中の戦闘だった/Laski Diffusion/Hulton Archive/Getty Images

(CNN) ロシア南西部クルスク州へのウクライナ軍の越境攻撃は、第2次世界大戦でソ連がドイツの侵攻軍相手に重要な勝利を挙げた地域と一部重複する場所で行われている。この戦いについて一部の歴史家の間では、ノルマンディー上陸作戦の1年近く前に欧州での戦争の潮目を変えたとの見方もある。

西側では通常、1944年6月6日のノルマンディー上陸がナチスの指導者ヒトラーによる欧州征服の試みの転換点になったと見られている。だが歴史家によれば、ドイツ敗北を告げる賽(さい)が投げられたのは43年7月5日~8月23日、大勢の兵員や戦車、装甲砲がクルスク周辺で戦った時のことだ。

クルスクでの勝利を機に「ソ連は東部で主導権を握り、そのまま終戦まで一度も主導権を譲らなかった」。米ニューオリンズの国立第2次世界大戦博物館にあるジェニー・クレイグ戦争民主主義研究所の幹部、マイケル・ベル氏はそう語る。

クルスクの戦いとは何だったのか?

1943年春、東方に展開するヒトラーの部隊はスターリングラードの戦いで甚大な損耗を被った。ドイツはボルガ川沿いのスターリングラードを制圧してソ連軍を潰走させ、欧州完全征服に向け燃料供給源となるコーカサス南部の油田を奪取する狙いだったが、この戦いで100万人近い死者を出した。

ソ連の指導者スターリンは、いかなる犠牲を払ってでもスターリングラードを防衛するよう命令。42年の晩夏から秋にかけて進軍したドイツ軍は冬の間に押し戻され、市内に残った部隊も43年2月までに投降した。

その後ドイツ軍が東部前線に沿って押し戻される中、ヒトラー配下の将官らは東方における主導権を奪還する方途を模索し、ドイツ戦線の南北に約240キロにわたって延びるソ連軍の突出部を切り取る方針を決めた。この場所を守る要員の数は100万人を超え、その中心がクルスクだった。

将官らは春に攻撃を実施したい考えだったが、ヒトラーは「ツィタデレ作戦」と名付けられた作戦の開始を延期し、ドイツの最新鋭戦車の一部を前線に派遣できるようにした。

これにより、ソ連は明らかに攻撃を受けそうな地点に防御を敷く時間的余裕ができた。そう指摘するのはオハイオ州立大学の歴史学教授で、米陸軍の機甲部隊も指揮した経験を持つピーター・マンスール氏だ。

「ドイツがこの突出部を前線から排除することに関心があるのは明白だった」(マンスール氏)

ドイツは突出部を制圧するため、兵員80万人と戦車約3000台を投入した。

しかし、ドイツ軍は手ごわい防御に直面する。

第2次大戦博物館のベル氏によると、ソ連は突出部を守るため幾重にも防衛線を張り巡らし、約4800キロの対戦車壕(ごう)を掘ったほか、40万個の地雷を埋設。さらに東部戦線に展開する装甲兵器の75%、兵員の40%をクルスクの突出部や背後の予備部隊に集中させていた。

ヒトラーが要望した新型戦車はソ連の装甲車よりも強力だったが、スターリンの軍隊は数で優位に立っていたと、ベル氏は指摘する。

「ドイツの方が優れた装備を有していたが、数の面では明らかにソ連側に分があった」(ベル氏)

一部の推計では、クルスクの戦いに動員されたソ連の戦力は兵員200万人、戦車7000両を超えていたとの見方もある。

7月9日には連合軍がイタリアのシチリア島に上陸し、数の面ではさらにソ連側有利に傾いた。ヒトラーは新たな前線の防衛を迫られ、東部戦線の兵力の一部をイタリアに振り向けることを余儀なくされたと、歴史家は指摘する。

残留したドイツ軍はソ連の防御を突破できなかった。目標達成には程遠く、後衛エリア深くに侵入する場面は一度もなかった。

ヒトラーの部隊の損耗は甚大だった。この戦いに関する史料によると、死者は20万人以上に上り、1000両前後の戦車が失われたとされる。

「ドイツ軍はこの時ほどの規模の兵力を二度と集められなかった」と、ベル氏は指摘する。

「クルスクの戦いの結果、ドイツの予備機甲部隊は壊滅した。これにより戦争の残りの期間、ドイツがロシア戦線を防衛するのは不可能になった」(マンスール氏)

「クルスク以降、ドイツはもはや兵力の損失を穴埋めできなかった。クルスクで機甲部隊の精鋭を失った」という。

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