80人の命を守った旅客機の設計とは 脱落した翼が炎上、逆さまの機内で乗客宙づり
デルタ機横転、着陸時の様子は
(CNN) カナダ・トロントの空港に着陸した旅客機が滑走路上で火を噴き、片方の翼が折れて機体が逆さまにひっくり返った17日の事故。目撃者が最悪の事態を恐れる中、80人の乗客乗員は全員、無事に脱出した。
「逆さまになった機体から人々が歩いて出て来る光景には目を見張った」。エンブリーリドル航空大学のマイケル・マコーミック准教授そう振り返り、「だがそれが実現したのは、(航空機の)設計、工学、長年の民間航空研究のおかげだった」と指摘する。
翼に格納された燃料タンク
過去に機体が炎上した事故を教訓として、航空機のジェット燃料は客室の真下ではなく、翼に格納されるようになった。初期の航空機は、燃料が機体の胴体下部に格納されていた。
17日の事故を起こしたデルタ航空のボンバルディアCRJ900型機は、滑走路上を横滑りして横転した際に燃料を搭載した右の主翼が脱落。滑走路上で炎上する翼をその場に残して、機体は横滑りを続けた。
航空エンジニアのジョー・ジェイコブセン氏によると、同機は翼が脱落したおかげで客室が炎上する事態を免れた。
翼の脱落は整備または設計上の欠陥だった可能性もあり、今後の調査でそうした可能性が検討されるかもしれないと同氏は言い添えた。
衝撃で主翼が脱落して爆発の可能性がある燃料が切り離されたことは、利点の一つにすぎないとマコーミック氏は言う。
「燃料を客室から切り離すと同時に、胴体を安定した状態で停止させる必要がある」
機体は逆さまになったものの、安定した状態で停止した。ただし全員が助かったのは、極度の力にも耐えられる頑丈な座席のおかげでもあった。
快適性より安全性を追求した「16G座席」
マコーミック氏によると、現在の商用機のほとんどは、重力の16倍の力に耐えられる「16G座席」が義務付けられている。
「航空機事故が起きて、たとえ逆さまになったとしても、座席がバラバラになったり外れたりすることがあってはならない」(同氏)。そのため座席は快適性以上に、事故が起きた場合の耐久性を念頭に設計されているという。
加えて座席に欠かせないのが、命を守るシートベルトだ。
今回の場合、「シートベルトがなければ間違いなく乗客が投げ出されてもっと多くのけが人が出ていただろう」と話すのは、「フライト・セーフティー財団」のハッサン・シャヒディ社長兼最高経営責任者(CEO)。「今回はこれが大きな役割を果たした」
今回のような事故は、数十年前であれば大惨事になっていたかもしれないと専門家のピーター・ゲルツ氏は言い、16G座席の義務付けなどのおかげで「今回のような事故が起きてもシートベルトさえ正しく締めていれば、衝撃に耐えて脱出できるチャンスがある」と指摘。「難燃素材の進歩と組み合わせれば、助かるチャンスは十分にある。指示にさえ従えば」とした。
90秒で全員を避難させた客室乗務員の対応
命を守る航空機の設計に加えて、マコーミック氏は乗客を安全に避難させた客室乗務員の対応も評価する。
客室乗務員組合のセイラ・ネルソン代表代行によると、同機に乗務していた客室乗務員2人は、逆さま着陸の経験はなかったものの、乗客を90秒で避難させる訓練などさまざまな事態を想定した訓練を受けていた。
今回の事故ではシートベルトを締めた乗客がコウモリのような宙吊り状態で垂れ下がっていたにもかかわらず、乗員は90秒以内に全員を脱出させることができた。
2人の客室乗務員は「職務を完璧に遂行した」とネルソン氏は賞賛し、これを機に客室乗務員への認識を高めてほしいと話している。「彼らはごみを拾ったり飲料を出したりすることだけが仕事ではない。訓練を受けたプロフェッショナルとして、乗客の安全に責任を負っている」