(CNN) 捕虜を記者団や報道カメラの前にさらす行為は、ほぼ確実に国際人道法違反に当たる。
しかしウクライナは明らかに、今週の記者会見で捕虜を公開することによる評判上の損失よりも、拘束された中国出身の戦闘員とされる2人を出席させることの方が重要だと考えていた。
「侮辱や公衆の好奇心から」の保護(赤十字国際委員会によれば、メディアからの保護もそこに含まれる)よりも、彼らに発言の場を与える価値の方が大きい――。おそらくそうした理屈だったのだろう。
中国は一貫してロシアのウクライナ戦争における中立を主張し、外国の紛争に関与しないよう自国民に繰り返し呼び掛けてきた。それでも、ロシアの重要な外交・経済上の生命線である中国の動向に、ウクライナ政府は鋭く目を光らせている。
戦闘服を着用して標準中国語で質問に答える捕虜たちは、武装したウクライナの治安要員から監視を受け、隣には通訳が座っていた。
2人はここまでの経緯では金銭的インセンティブが大きかったと振り返った。CNNは彼らの氏名や身元を一切報じていない。
ひとりは新型コロナウイルス禍で職を失い、収入を得る方法を探していたと説明。ロシアで見込める月25万ルーブル(約43万3000円)の収入は、母国で得られる想定額の倍以上だったという。
医療リハビリの経験があった彼は採用担当者に対し、ロシア軍でも同じ職務を希望する旨を伝えた。だがモスクワに到着すると、戦闘任務に備える訓練を強制された。
書類はロシア語のものしかなく、2人とも理解できなかった。ひとりは手振りで意思疎通していたと語った。
CNNは別の中国人戦闘員が署名したロシア軍の契約書を確認しており、そこから今回の捕虜2人が合意した内容を推測できる。
ウクライナ情報機関の情報筋がCNNに見せた契約書はロシア語で書かれており、有効期間は1年間。義勇兵に対して「戦闘参加と動員期間中および緊急事態下、戒厳下での職務遂行」などを誓約させる内容で、「国際平和と安全を維持・回復する活動」に参加することや、「ロシア連邦の領域外での国際テロ活動」を阻止することも求めている。
戦場に到着すると、そこでも指示は身振り手振りだった。2人のうちひとりが、ウクライナ東部ドネツク州で捕虜になるまでの混乱を振り返った。
「森に到達すると、隊長が『ダー、ダー、ダー』と言って攻撃開始を合図した。だが、攻撃目標の位置が分からなかった。ロシア側の陣地をいくつも通過したので、自軍の掩ぺい壕に向かっているのかと思った。冗談だったのかと思い隠れたところ、(別のロシア軍部隊の)隊長が手りゅう弾を投げ入れ、突然、(ウクライナの)無人機が至るところに出現した」
2人は投降した。戦闘に従事した期間はわずか3日だった。
外国人戦闘員の役割
この戦争では当初から、外国人戦闘員が双方の陣営で戦っている。
昨年末の時点でウクライナに拘束されていた非ロシア人捕虜のリストには、スリランカ人6人とネパール人7人、ソマリアやコンゴ共和国、シエラレオネ、エジプト、シリアなどからの戦闘員、さらには旧ソ連構成国の出身者十数人が記載されていた。CNNはリストを確認した。
ウクライナは今年1月、北朝鮮兵2人の身柄も拘束した。ロシアの戦争を支援する目的で北朝鮮政府が派遣した推定約1万4000人の兵力の一員だ。
ウクライナ国防省情報総局の情報筋はCNNの取材に、ロシアが外国人戦闘員を必要としているのは、消耗戦を余儀なくされているためだと説明した。
「ロシアが自国の兵士で長大な前線を維持するのは不可能で、あらゆる機会を利用して人員をかき集めている」という。
中国人2人の拘束が先週発表されて以降(ウクライナはその後、これ以外にもロシア側で戦う中国人155人の情報があると公表した)、彼らの採用方法や、中国政府が何らかの形で積極関与していたのかに大きな注目が集まっている。
ウクライナに中国人がいるのは中国政府の公式方針によるものかと記者団に問われたゼレンスキー大統領の答えは間違いなく、そうした臆測を沈静化させるものではなかった。
ゼレンスキー氏は先週、「現時点でその質問への答えは持ち合わせていない。ウクライナ保安庁が対応する」と発言。「誰かの指示があったと言っているわけではなく、そうした情報もない」と付け加えた。
一方でゼレンスキー氏は、中国政府は事態を把握しているとの見方も示した。

自転車でキーウのウクライナ大使館の前を通り過ぎる男性=8日/Genya Savilov/AFP/Getty Images
捕虜の2人はあくまで個人として参加したと強調し、TikTokに投稿された巧みな勧誘動画がきっかけだったと指摘した。
中国のSNSでは1年以上にわたり、こうした動画の一つが出回っている。元々ロシア国内向けに製作され、後から中国語字幕が付けられたとみられる。
映像には、戦闘服を着て野原で訓練するロシア兵らしき人物が映る。ロシア語で「男なら男らしくあれ」というナレーションが流れ、中国語字幕には契約時の支払い額も示されている。
字幕が公的機関によって追加されたのか、SNSユーザーによるものかは確認できない。ただ、捕虜のうち一人は、中国では軍事力が重視されているものの実戦の機会に乏しいため、こうした動画が反響を呼ぶのだと説明した。
タイミングが重要な理由
ウクライナは以前から捕虜による記者会見を開いており、ネパールやアフリカ諸国出身の戦闘員が参加したこともあるが、中国人捕虜を出席させる決定はやはり異例といえる。
重要なのはタイミングだ。
今回の会見は、ウクライナ政府がトランプ大統領の関心を引きつけようとロシア政府と競う中で開催された。トランプ政権は全面停戦への同意を取り付けるべくロシア大統領府に働きかけているものの、ほとんど成果が上がっていないように見える。
米国政府もまた、中国に強い関心を寄せている。ホワイトハウスの一部関係者は中国を米国のグローバルな主要敵と見なしており、米政権は中国に対する輸入関税を段階的に引き上げている。
ゼレンスキー氏の立場からすれば、中国のロシア支援が外交・経済面のみにとどまらない可能性を示唆する情報が少しでもあれば、それを大々的に発表することが明らかに利益になる。
ただ、ゼレンスキー氏がメッセージを送っている相手は米国だけではないかもしれない。
デンマーク王立防衛大学のアンダース・パック・ニールセン氏の見方では、ウクライナ政府は欧州連合(EU)の最近の中国接近についても懸念している。トランプ氏の貿易戦争に直面するEU、中国の2大経済圏は共同での解決策が可能か模索している状況だ。
ニールセン氏はCNNに対し「ここにきて突然、欧州と中国が他の問題でも共通の立場を見いだす可能性が浮上しているように見える」と指摘した。
「(ロシア軍の中国人戦闘員という)今回の側面を強調するのは、明らかに政治的な動きだ」とも言い添えた。
間違いなく中国政府もそう受け止めた。
中国外務省の林剣報道官は名指しを避けつつも、「関係当事者には中国の役割を正しく冷静に理解し、無責任な発言は控えるよう求める」と述べている。
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本稿はCNNのアンドリュー・カーリー、ビクトリア・ブーテンコ両記者による分析記事です。