モスクワ(CNN) 予想外だったその措置はほとんど実行に移されず、ましてや延長もされなかった。ただクレムリン(ロシア大統領府)による絶望的なまでに短命なイースター(復活祭)休戦の直接の狙いは、トランプ米大統領にあった。ウクライナ戦争での和平を目指す同氏の取り組みは悲惨な状況にあるが、その責任を自分たち以外に転嫁することがロシア側の目的だった。
ロシアのプーチン大統領が驚くべき30時間の休戦を19日に発表したとき、ウクライナや他の国々は早くも疑いの目を向け、皮肉を含んだ表面的なアピール以上のものは期待できないのではないかとの見方を示唆した。ロシア政府に対しては、和平を遅らせる障害になっているとする批判の声が高まっていた。
しかし休戦の発表により、プーチン氏が軍事衝突をいつでも停止できるという点も明確になった。短期間武器を置くことでより実質的な停戦の開始に持ち込めるかもしれないとの期待は高まった。うまくいけば、真剣な和平プロセスが軌道に乗る余地が生まれる可能性もあった。
それでもイースター休戦は、20日の真夜中にあっさり期限切れを迎える。クレムリンがかねて言及していたまさにその時刻だった。ウクライナはロシアに対し休戦の延長を呼び掛けたが、我々が知る限り延長を巡る話し合いすら行われることはなかった。どうやらロシア政府にとっての休戦は、戦争終結の始まりなどでは全くなかったようだ。
銃声が静まった、もしくは静まるとされていたモスクワ時間の19日午後6時。まさにその瞬間から、大規模な休戦違反の報告が双方から寄せられた。ウクライナ軍はロシア軍が2935回の攻撃を広大な前線に沿って実施したと非難。その中には1882回の砲撃と、96回の地上攻撃が含まれるとした。
しかし、相手の違反を糾弾する怒りに満ちたロシア側の叫びこそが、トランプ氏の耳には大きくかつ明瞭に届くはずだとクレムリンは踏んでいる。
ロシアの当局者らは、ウクライナ側に5000件近い違反があったと主張。より長期の停戦は実現不可能だとの認識を改めて表明した。トランプ氏がこれまで提案した30日間の停戦はウクライナ政府の同意を得たものの、ロシア政府によって拒絶されている。
「ウクライナはロシアのプーチン大統領が提案したイースター休戦を守っていない。これは同国が30時間ですら戦闘を停止することができないことを示している」。ロシア外務省でウクライナ政府の犯罪を担当する特使を務めるロジオン・ミロシュニク氏は20日、政府系のテレビ局に出演してそう述べた。
クレムリンにとって、これは友好的な意思表示だった。ロシア側から休戦を持ちかけた形にすることで、トランプ氏の協定にとって真の障害物となっているのはウクライナの指導部であり、また欧州の支援国であるとの構図を浮かび上がらせた。
ホワイトハウスは過去にも再三にわたりクレムリンの言説をなぞっているので、今回もそれを繰り返すと想定するのが正しいかもしれない。
現状でロシア側には不安が広がっている。予測不能なトランプ氏が本当にウクライナでの和平努力から手を引いてしまったら、一体どうなるのかという不安だ。トランプ氏は早期の進展がなければ、実際にそうすると脅しをかけている。
プーチン氏の最大の懸念は、トランプ氏の矛先がロシアに向き、米国によるウクライナ支援の強化とロシアに対する過酷な新規の経済制裁が実現してしまうことだ。それは米ロ関係の再構成という潜在的な恩恵が終わりを告げることを意味する。
米国は引き続き、「完全かつ包括的な停戦に向けて尽力する」としている。国務省の報道官が20日に明らかにした。これに先駆け、ウクライナ政府はロシア政府の度重なる休戦違反を非難していた。
米国のルビオ国務長官は先週、進展の兆候が全く見られなければウクライナ紛争の終結に向けた取り組みを「数日」以内に終える可能性を示唆している。
従ってトランプ氏に対し、和平プロセスの最終的な失敗の責任を負うのはウクライナであってロシアではないと納得させることは、クレムリンの重要な目標となる。そしてそれこそが、イースター休戦を宣言した主要な理由だった公算が大きい。
休戦が期限を迎える20日夜より前、プーチン氏から休戦延長の命令は発せられないとクレムリンが説明する中、トランプ氏は依然として和平を目指す兆候を示した。とりあえず今のところは。
「願わくば、ロシアとウクライナには週内にも合意を成立させてもらいたい。そうすれば両国は、米国との大きなビジネスを始めることになるだろう。発展的で、巨万の富を生むビジネスを」。トランプ氏は20日、自身のSNSトゥルース・ソーシャルに大文字でそう投稿した。ワシントン郊外に所有するゴルフコースからの帰り道だった。
書き込みの内容は明るく、現状トランプ氏は妙に楽観的に見える。先週末、ウクライナ戦争に突破口が開けるとの期待があえなく打ち砕かれたにもかかわらず、まだ和平合意は可能だと考えているようだ。
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本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。