インフレを心配しない投資家とFRB、本当は懸念すべき?
ニューヨーク(CNN Business) インフレに関し、実体経済と金融業界の間には巨大な乖離(かいり)が存在する。このまますんなりとはいかないだろう。
米政府は先週、食品とエネルギーを除いた5月の消費者物価が1992年以降最速のペースで上昇したと発表。米塗料メーカーのシャーウィン・ウィリアムズが値上げに動くなど、コモディティー(商品)価格の高騰に対応する企業が相次いでいる。
食品価格も上昇中で、メキシコ料理チェーンのチポトレや食品大手キャンベルスープがこのほど値上げを行った。
また、経済再開に伴い職場復帰が進む小売りやレジャー、接客業の労働者を中心に、賃金も上がっている。一部の企業は利益維持のため値上げに踏み切る見通しなことから、インフレ圧力に一段と拍車がかかりそうだ。
労働力不足も問題となる。
米ペット用品小売り会社のチューイは直近の決算発表の後、株主宛ての書簡で「当社の配送センターでは、国内の多くの企業と同様の人手不足が起きている」と説明。空いた職を埋めるため、引き続き賃金の引き上げや福利厚生の拡充に投資している状況だと明らかにした。
しかし、投資家や連邦準備制度理事会(FRB)は、物価上昇は「一時的」だとして重大視しない姿勢を示している。長期金利は下落傾向にあるが、これは通常、インフレの過熱する時期には起きない現象だ。もし物価上昇が定着するとみているなら、債券投資家はもっと高い利回りを求めるだろう。
市場が織り込むFRBによる年内の利上げ確率は3%に過ぎず、わずか1カ月前の10%から低下した。利上げが中央銀行のインフレ対策の切り札であることは投資家も知っており、FRBのパウエル議長が16日に行う記者会見ではこの点に注目が集まりそうだ。
ウォーレン・フィナンシャルの最高経営責任者(CEO)、ランディ・ウォーレン氏は「債券市場はまだインフレ懸念を抱いていない。市場はFRBの言うことを信じている」と指摘する。
問題は、FRBのインフレ対応が後手に回る可能性があることだ。
パインブリッジ・インベストメンツの債券運用などの世界責任者、スティーブン・オウ氏は「インフレは一時的なのか、それとももっと構造的なのか」「FRBはこの先、物価をコントロールできなくなり、政策ミスを犯して、インフレを抑え込めなくならないか」と疑問を投げかける。
FRBと債券市場のインフレについての考えが誤っていれば、FRBは想定よりも大幅に早い段階で、新型コロナ対策の景気刺激策を縮小せざるを得なくなる可能性がある。その場合、膨れ上がった資産購入額を縮小し、早期の利上げを実施することになる。
資産運用会社クラルス・グループの幹部、ブライアン・コスロー氏は「日々の生活で目にするものだけに、物価上昇については多くの疑問が存在する」「ただ、特に賃金の伸びに関しては、既にピークに達した可能性がある」と指摘する。
たとえそうだとしても、投資家と消費者がこれほど物価を重視していること自体、特筆に値する。この10年あまり、インフレは実質的に問題になっていなかった。
スカイブリッジ・キャピタルの共同最高投資責任者(CIO)と上級ポートフォリオマネジャーを務めるトロイ・ガエスキー氏は「FRBはインフレ懸念を深刻に受け止めるべきだ」と指摘。そのうえで、インフレが一時的ではなく持続的になる可能性は20%だとの見方を示した。