戦争がもたらした世界経済の混乱、気候変動対策に及ぼす影響は
サンフランシスコ(CNN Business) ウクライナの戦争は、世界経済を混乱状態に陥れた。だが最悪の事態はこれからだと専門家は予想する。
この紛争は物流やビジネス、貿易に混乱をもたらした。海上、陸上、航空貨物は飛行禁止区域や戦争の被害を避けるために迂回(うかい)ルートを取り、多国籍企業は制裁や関係断絶を求める圧力を理由に操業を中止。各国がロシアからの輸入依存を減らすため、当面のエネルギー需要への対応に追われ、一部は石炭の使用を倍増させている。
「これは物流にかかる時間だけの問題でも、石油価格や石油の使用量だけの問題でも、半導体の輸送待ちだけの問題でも、運輸の人手不足だけの問題でもない」。フォレスター・リサーチの上級アナリスト、アラ・バレンテ氏はそう指摘する。「どれか1つの問題ではなく、その全ての問題だ」
サプライチェーン(供給網)やエネルギーの機能不全は、消費者、企業、政府にとって一層のコスト上昇を招き、結果として環境への負担が増す。
戦略国際問題研究所の専門家ニコス・セイフォス氏は言う。「戦争はエネルギー消費の激しいビジネスだ」「物を動かし、部隊や装備を動かすにはエネルギーがいる」
既に世界の石油価格は高騰してほぼ10年ぶりの水準となり、食品から肥料に至るまで、あらゆる物が値上がりしている。
国際通貨基金(IMF)は先月、「食品や燃料価格の急騰は、一部地域の不安定化リスクを増大させるかもしれない」と指摘。「長期的には、この戦争によってエネルギー貿易がシフトし、サプライチェーンが再編され、決済網が分断され、各国が外貨準備高を見直せば、世界経済や地政学秩序は根本から変動する可能性がある」とした。
各国がロシア産の石油やガスへの依存縮小を図る中、そうした変動は既に起きている。
米国はロシアの石油、天然ガス、石炭の禁輸に踏み切った。英国は年内にロシアからの石油輸入を段階的に縮小し、天然ガスの輸入も停止する計画を打ち出した。
一方、欧州連合(EU)は、ロシア産の石炭の輸入禁止を盛り込んだ第5ラウンドの対ロシア制裁を発表した。ただしロシア産の石油禁止までは踏み込まなかった。
欧州は天然ガスの約40%をロシアから輸入しており、今年のロシアからの天然ガス輸入を66%削減する計画を打ち出した。
米国のジャネット・イエレン財務長官は6日、下院金融サービス委員会の公聴会で、ロシアの行動は「世界経済にとてつもない影響を及ぼすだろう」と証言。世界的な食糧不安や債務負担に加え、「1つの燃料供給源や1つの貿易相手国に依存することの脆弱性(ぜいじゃくせい)を、我々は目の当たりにしている。だからこそ、燃料供給源や供給国を多様化させることが不可欠だ」と力説した。
セイフォス氏によると、当面の間、EU諸国は多様なエネルギー供給の手段を模索し、国民のために冬季の暖房を確保する必要に迫られる。
その手段として石炭の使用が増える可能性は大きい。EUの環境政策を統括するフランス・ティメルマンス氏によると、これまで天然ガスをエネルギー転換計画の足掛かりと位置付けていた国々が、予定よりも長く石炭を燃やすことを検討している。だがこうした動きは一時的な措置としなければならず、各国は再生可能エネルギーへの移行を加速させる必要があるとティメルマンス氏は話している。