創造性の「暗黒面」 抑鬱や狂気が天才を生み出す?
オーストリア・グラーツ大学の神経科学者アンドレアス・フィンク氏らは、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使って統合失調症傾向の患者の脳画像を撮影。その後に創造性を試すテストを実施して両者の関連をまとめ、昨年9月に研究成果として発表した。
これによると、重い統合失調症傾向を患っている人と創造性豊かな人の脳内ではともに、思考中であっても、注意と集中にかかわる部位とされる楔前部(けつぜんぶ)が活動を続けていた。一般的に、複雑な課題に取り組むと、楔前部の活動が低下し集中することを助けると考えられている。
創造性豊かな脳も統合失調症傾向の脳も、大量の情報を取り込む一方で、雑音となる情報を排除できない。つまり、脳のフィルターが機能していないといえそうだ。
米国の認知学者スコット・バリー・カウフマン氏は一連の研究成果を受けて、「創造的認知への鍵は、情報の水門を開けて、可能な限り多くの情報を取り入れることにありそうだ」と指摘。「大量の情報が入ってきて収拾がつかなくなり、奇抜な関連づけがなされる。すると、時として、創造的なアイデアに結びつくのでは」と分析した。
なんらかの芸術が苦痛から生まれることはあるが、創造的な人が全員、精神的な疾患を抱えているというのは不正確だろう。
スウェーデン・カロリンスカ研究所のクヤガ氏によれば、監督、視覚芸術家といった人々は一般の人よりも精神的な疾患を示すことは少なかったという。