チョウザメとヘラチョウザメの交配種が偶然誕生、種保存の取り組みで ハンガリー
(CNN) 世界最高級のキャビアがとれることで知られる絶滅危惧種ロシアチョウザメの保護に取り組むハンガリーの科学者のグループがこのほど、2種類の魚の交配種を偶然誕生させる出来事があった。
思わぬ形で生まれたのはロシアチョウザメとヘラチョウザメの交配種。前者を無性生殖させる取り組みの中で偶然交配が行われた。交配種の正式名は決まっていないが、研究者らは両者の英語名を組み合わせて「スタードルフィッシュ」と名付けた。
当初はヘラチョウザメの精子を使ってロシアチョウザメの生殖を促すのが目的で、両者の交配は意図していなかった。科学誌に今月掲載された論文によると、過去にヘラチョウザメとロシアチョウザメ以外のチョウザメの交配が試みられたことはあったが成功はしていなかった。
ロシアチョウザメとヘラチョウザメは同じチョウザメ目に属し、遺伝子学上の違いはあまりない。進化の過程も似通っているが、生息地や食性、体の特徴は大きく異なっている。ともに良質で美味な魚卵が取れることで知られる。
どちらの種も生息地の縮小や乱獲で絶滅の危機にさらされている。飼育された状態でロシアチョウザメとヘラチョウザメとの交配が行われたのは今回が初めて。
既存の種と2つの交配種との比較写真。aとdがそれぞれロシアチョウザメとヘラチョウザメ。間のbとcが交配種の「スタードルフィッシュ」/Genes Journal via MDPI
交配種には2つのパターンが存在した。どちらも背中の突起や前方に突き出た短い吻(ふん)といったチョウザメに似た特徴がみられるものの、一方の吻はヘラチョウザメを連想させるよりとがった形状となっていた。これらの交配種は全体の62~74%が孵(ふ)化から1カ月間生存した。
研究者によると、交配種が生まれた理由はまだ判明していないが、ロシアチョウザメは進化が遅く、ヘラチョウザメを含む他のチョウザメとの形態や遺伝子上の差異が少ないのが影響したのではないかとの見方が示されている。
別のチョウザメの交配種は広く養殖が行われ、世界のキャビア生産の約20%を占める。ただ、そうした種は甲殻類やより大型の餌を必要とし、それらの給餌に伴う二酸化炭素の排出量削減が養殖業の気候変動対策で課題となっていた。
もしスタードルフィッシュの食性がヘラチョウザメと同様にプランクトンやその他の微生物をえさとするものであるなら、キャビア生産のための養殖を従来より環境負荷のかからない形で行える可能性があると研究者らはみている。
チョウザメを絶滅危惧から救う点でも、今回の研究で「目標に一歩近付くことができた」と研究者は語った。
現在、スタードルフィッシュたちはハンガリーにある研究施設内で穏やかに暮らしている。本来生まれた場所ではない川や海へ侵入する危険はない。