サメが行き交う「高速道路」、漁師たちが保護活動に取り組む
(CNN) カリブ海に生息するサメやウミガメ、エイにとって、メキシコからホンジュラスまでおよそ965キロメートル以上にわたり広がる「メソアメリカン・リーフ」は、多くの海洋生物が行き交う混雑した回遊ルートとなっている。海洋生物は、世界で2番目の規模を誇るこのバリアリーフを利用し、南北に移動。サンゴ礁、藻場、マングローブ林が織り成す豊かなこのリーフは、極めて重要な食料と生息地を提供している。
だが、陸上の街道と同じように、この海の回廊にも危険の可能性は伴う。乱獲、商業開発、サメのヒレだけを切り取り放流する違法なフィニング漁によって、ジンベエザメやオニイトマキエイなどの種が危険にさらされているという。これらはすでに脆弱(ぜいじゃく)な状態にあり、世界ではサメとエイの3分の1以上が絶滅の危機に直面している。
南北米大陸のサメとエイの保護に取り組む非営利団体、マーアライアンスの創設者レイチェル・グラハム氏は「監視を行っているほとんどの国で、多くのサメとその個体数が減少を続けている」と説明した。同団体はこの減少を反転させることを目指している。
マーアライアンスは、メソアメリカン・リーフ一帯で絶滅の危機に瀕(ひん)した海洋生物を監視することで、保護活動の周知や政治的行動の促進に役立つ、個体数に関する重要な知識を収集できるという。だが同団体は、地元の漁業コミュニティーと対立して行動するのではなく、むしろ漁師たちの支援を求めているという。
「海に毎日出ているのは漁師であり、サメや魚の長期的な運命を決めるのも彼らだ」とグラハム氏は話す。
自然保護活動家に転身した漁師たち
マーアライアンスは、主にプロジェクトベースで最大60人の漁師を雇い、データ収集や魚のタグ(標識)付けとリリース(放流)の指導を行っている。これは漁業コミュニティーに代替収入をもたらし、天然資源への依存度を下げるだけでなく、健全な海洋生態系の恩恵や持続可能な漁業のあり方を漁師らに教育するものでもある。
イバン・トレスさんも、マーアライアンスで働く漁師のひとりだ。以前は地元で食用として販売するサメを捕っていたが、今ではサメが生態系全体の健全性にとっていかに重要であるかを学び知っている。海の食物連鎖の頂点に位置するサメは、他の海洋生物の個体数を抑制することで、海洋生態系の均衡を保っている。これにより、漁師の1日当たりの漁獲量を増やすことができるのだという。
「サメが海にとっていかに重要であるかを知った今、今後サメを捕ることはない」とトレスさんは言い切った。
こうした意識の変化がメソアメリカン・リーフの漁業コミュニティー全体に広がっていけば、サメや他の種の個体数に希望を持てるようになるとグラハム氏は指摘する。
「サメにとっての最大の脅威は紛れもなく乱獲だ」とグラハム氏。漁業界を改革することが、個体数の回復につながるという。
2020年、中米のベリーズでは刺し網の使用が違法化された。刺し網は大型の海洋生物を絡め取ることで知られる、水中に張られた大きな帯状の漁網具だ。グラハム氏によると、刺し網の禁止措置により、ベリーズ本土から離れた環礁のライトハウス・リーフなどではすでに効果が表れている。
ここは乱獲に悩まされた地域で、水産資源を搾取しようと国際水域を越えてきた船もあった。だがマーアライアンスによると、19年から21年の間にライトハウス・リーフではサメの個体数が10倍に増えた。「我々が目にしているのは、まさしく奇跡だ」とグラハム氏は述べている。
だが、こうした種の規制は、長期的に効果を持続させるためにも魚が通るルート全体で取り入れる必要がある。各国は漁師と漁獲量の間の持続可能なバランスを見出さなくてはならない。
グラハム氏は、漁業コミュニティーへの教育や経済的な代替案の提供を通じ、マーアライアンスがこの地域を行き交う大型海洋生物に安全なルートを確保する一助となることを願っている。
「漁師の暮らしとサメの生存、双方にとって利益となる戦略を見出す必要がある」とグラハム氏は話している。