32億年前の地球衝突で海を沸騰させた巨大隕石、「肥料爆弾」と呼ばれる理由とは
隕石衝突の甚大な影響
S2隕石の地球衝突時の直径は37~58キロメートルで、その影響は迅速かつ甚大だったとドラボン氏は語る。
津波が地球全体を襲い、衝突によって生じた熱は強烈で、海の表層が沸騰し、蒸発するほどだった。ドラボン氏によると、海水が沸騰・蒸発すると、衝突直後の岩石に見られるような塩分が形成されたという。
衝突によって大気中に放出された塵(ちり)により、衝突から数時間以内に地球の反対側でも空が暗くなった。大気の温度は上昇し、厚い塵の雲が日光を遮り、微生物は日光をエネルギーに転換できなくなった。陸上や浅水域に生息する生物は、衝突の直後から悪影響を受け、その影響は数年から数十年にわたって続いたと考えられる。
最終的に降雨によって、海の表層が回復し、塵も海に沈んだ。
しかし、深海の状況は海上とは異なっていた。津波で鉄などの成分が巻き上げられ、海面に浮上した。また浸食により、沿岸のごみが洗い流され、隕石に含まれていたリンが放出された。実験室での分析から、隕石の衝突直後に鉄やリンを栄養源とする単細胞生物が急増したことが分かっている。
ドラボン氏によると、生命体は急速に回復し、その後繁栄したという。
ドラボン氏は「隕石の衝突前も、海には多少の生物は生息していたが、それほど多くはなかった。これは、浅海で栄養素や鉄のような電子供与体が不足していたためだ」と述べ、さらに次のように続けた。
「しかし、隕石の衝突でリンなどの重要な栄養素が世界規模で放出された。ある学生はこの衝突を『肥料爆弾』と表現した。全体的に見ると、これは地球上の初期生命体の進化にとって非常に良いニュースだ。なぜなら、生命の進化の初期段階では隕石の衝突が現在よりもはるかに頻繁に起こっていたからだ」
衝突の影響はさまざま
S2と小惑星チクシュルーブの衝突は、異なる結果をもたらしたが、これは隕石の大きさや、衝突時の地球の環境の違いによるものだ、とドラボン氏は説明する。
チクシュルーブ衝突体は、地球の炭酸塩プラットフォームに衝突し、大気中に硫黄を放出した。この硫黄がエアロゾルを形成し、地表の気温を急激かつ極端に低下させた。
そして、どちらの衝突でも、多くの生命体が死滅したが、S2の衝突の後、浅瀬に生息する太陽光依存型の頑強な微生物は、海が再び満たされ、塵が沈んだ後、急速に回復しただろうとドラボン氏は推測する。
ドラボン氏は、「S2衝突時の生命ははるかにシンプルだった」とし、「朝、歯を磨くと、口の中の細菌を99.9%除去できるかもしれないが、夕方までに元に戻っている」と付け加えた。