バイユーのタペストリーに描かれた「失われた」王の邸宅、考古学者が発見

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
バイユーのタペストリーの1場面では、イングランド最後のアングロサクソン王、ハロルド2世がボシャムに向かう様子が描かれている。ハロルド2世はその後、豪華な屋敷で宴会を開く/Hulton Archive/Getty Images

バイユーのタペストリーの1場面では、イングランド最後のアングロサクソン王、ハロルド2世がボシャムに向かう様子が描かれている。ハロルド2世はその後、豪華な屋敷で宴会を開く/Hulton Archive/Getty Images

(CNN) 世界で最も有名な中世の芸術作品と呼ばれることが多いバイユーのタペストリー。ノルマン人による1066年の英イングランド征服に至る出来事を精緻に描いたものであると同時に、歴史上の謎でもある。この魅惑の刺繍(ししゅう)には作者の身元を含め、いくつか不明点が残っているものの、新たな研究でパズルのピースがまた一つ見つかった可能性がある。

長さ68.3メートルのタペストリーには、ノルマンディー公ウィリアムとその軍隊がヘースティングズの戦いでイングランド最後のアングロサクソン王、ハロルド2世を殺害する様子が描かれている。ハロルド2世が目から矢を引き抜く描写には議論があるかもしれないが、考古学者のチームは今回、タペストリーに描かれた別の細部、すなわちイングランド・ボシャムにあった王の邸宅の場所を確認した。

研究チームは新旧の手法を組み合わせ、王宮の場所の特定を試みた。王宮はタペストリーに2度登場する。1度目はハロルド2世がフランスへの出航前に豪奢(ごうしゃ)な屋敷で宴会に興じている場面、2度目は戦闘を前にした帰還の様子だ。研究チームは1月9日、学術誌アンティクエリーズ・ジャーナルに調査結果を発表した。

「私たちは(バイユーのタペストリーを)単なる芸術作品と見なすことが多いが、当然、そこには実際の出来事や場所が描かれている。タペストリーに描かれたそうした場所の一つをある程度確信をもって現実世界に特定することができ、本当にわくわくしている」。英ニューカッスル大学の上級講師ダンカン・ライト氏はそう語る。

論文の共著者を務めた英エクセター大学のオリバー・クレイトン教授(考古学)によると、この時代の考古学的な遺物は入手が難しい。高貴な身分であっても家は木造で、使用された木材はもう残っていないとみられる。

今回の発見は最後のアングロサクソン王に光を当てるのみならず、イングランド史の転換点を垣間見る貴重な機会も提供している、と研究者は口を揃える。

中世のトイレなどが重要な手がかりに

バイユーのタペストリーにはボシャムの地名が記されているものの、刺繍に描かれたハロルドの住居の正確な位置はこれまで不明だった。考古学者らは長年、現在村の中心になっている17世紀建造の邸宅はかつて王宮があった場所の上に建っているのではないかと予感を抱いていた。

この場所を確認するため、研究者らはさまざまな方法を駆使。現在の邸宅の中にある構造物の分析、地中に埋まった中世の王宮の遺構の地中探査レーダーによるスキャンとマッピング、2006年の発掘で得られた証拠の調査などを行った。

「考古学は掘ることがすべて、発掘がすべてと思われがちだ」とクレイトン氏。「だが、考古学はジグソーパズルのようなもので、膨大な数の多様な情報源を駆使している」と語る。

調査の結果、邸宅と庭の中から、これまで特定されていなかった中世の建物が二つ見つかった。だが遺跡の年代を突き止め、宮殿を特定する上で重要な手がかりとなったのは、06年の発掘で見つかったトイレだった。研究者たちは当時、この特徴を見落としていた。ライト氏によると、アングロサクソン時代の上流階級の住宅に設置されるトイレには一定のパターンがあると考古学者が気づき始めたのは、ここ10年のことだという。

もう 一つの手がかりは、遺跡が教会に近いことだ。研究によると、上流階級のアングロサクソンの住宅はしばしば教会付近に建設されており、ハロルド2世の王宮の遺跡もアングロサクソン時代の教会の隣にあった。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「英国」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]