若い男性の脳がガラスに変化、ベスビオ火山噴火の超高温にさらされた過程を解明
研究チームは近年の噴火の観測結果に基づき、瞬時に消滅した超高温の火山灰雲によって、人の脳組織がガラス化する条件が出来上がった可能性があると結論付けた。ただ、軟組織がガラス化する条件をめぐっては学会から異論も出ている。
若い男性の脳は、恐らく頭蓋骨と脊柱(せきちゅう)に守られて「熱による完全な崩壊」を免れ、有機ガラスになったと研究チームは推定する。
地を這(は)う火砕流と違って火山灰雲は空中で発生する。しかしジョルダーノ氏によると、火山灰雲とは火砕流の希薄な部分のことで、通常は火砕流の端の方で形成される。火砕流に含まれる物質のほとんどが雪崩や地滑り状になるのに対し、周辺部は粒子の細かい灰で構成され、超高温の雲に触れれば人が死ぬこともある。
研究チームはガラス化に必要な温度を探るため、頭蓋骨と脊柱の内部から採取したガラス標本の断片を系統的に冷却・加熱した。その結果、510度以上の高温で脳組織がガラスに変化することが分かった。
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ヘルクラネウムの遺跡地域。後方はベズビオ山/Pier Paolo Petrone
「火山灰雲は人々を即死させた。彼らはおよそ510度、恐らくは600度の雲にのみこまれた」(ジョルダーノ氏)
同氏によると、ヘルクラネウムを覆った火山灰とがれきの層の底には、火山灰雲によって堆積(たいせき)したと思われる細かい火山灰の層があった。
この説について脳組織に詳しい英オックスフォード大学のアレクサンドラ・モートンヘイワード氏は、軟組織のガラス化は「まずあり得ない」との見解を示し、ガラス状の物質が脳組織だったという説には納得できないと話している。同氏は今回の研究にはかかわっていない。