(CNN) 第2次世界大戦が終わって80年近くたつ。それでも、戦争の戦略観を定義づけるレガシー(遺産)は今日まで続いている。
航空、ミサイル技術、宇宙基盤の資産などでめざましい進展があった一方、勝利の概念は変わっていない。敵を壊滅させ、領土を確保または解放することだ。
それでも、それぞれの戦争には独自性がある。
そして軍司令官にとって、各戦争がどう形成されるか、その違いを早めに理解することほど難しい課題はない。それが私の見解だ。
その一つ目の要因は、技術の進歩だ。それは兵器や装備の発展を決定づけるものとなる。
二つ目は国内外の政治状況と経済環境だ。
勝利は独自性のある戦略を必要とし、独自性のある論理に従って実現する。
この戦争の中心的な推進力となってきたのは、無人兵器システムの発展であることは周知のとおりだ。
こうしたシステムは息をのむペースで増え、その適用範囲はさらに広がりを見せている。
極めて重要なのは、こうした無人システム――ドローンを含む――や他のタイプの先進兵器が、ウクライナが陣地戦に引きずり込まれるのを回避するために最良の方法を提供しているという点だ。陣地戦で我々に優位性はない。
こうした技術の習熟は重要である一方、それだけが現在の戦略に影響を与えているわけではない。
我々は重要なパートナー国からの軍事支援の縮小と戦わなければならない。こうした国々は内政に緊張を抱える状態にある。
我々のパートナー国のミサイルや防空迎撃兵器、大砲の弾薬の備蓄は尽きつつある。ウクライナでの激しい戦闘行為が原因だが、世界的な推進装薬の不足も要因となっている。
ロシアは中東情勢の展開が国際社会の注意をそらしていると気づいていて、他の場所でもさらなる紛争を引き起こそうとするかもしれない。
国際社会が科した制裁の枠組みが弱いため、ロシアは一定の国との協力関係を維持しながら、我々に消耗戦を仕掛けるための軍産複合体を展開することが依然可能な状態にある。
我々は、敵が人的資源の動員で極めて有利なことを認識しなければならない。ウクライナの国家機構が不人気な手段を使わずに、軍の人員レベルを引き上げることができない状況とは対照的であり、我々はこの点も認識する必要がある。
最後に、我々は自国の規制枠組みの欠陥と、防衛産業の部分的な独占状態で、身動きがとれなくなっている。こうした状況が弾薬などの生産のボトルネックを生み、供給面でパートナー国への依存度をさらに高める要因となっている。
我々の戦闘経験、特に2022年以降のものは他にはない唯一のものだが、それでも勝利に向けて常に新しい方法、新しい能力を探さなければならない。それが敵に対する優位性を確保する上で手助けとなる。
恐らく、現時点で最も優先度が高いのは(比較的)安価で、高い効果を発揮する最新の無人機や他の技術的手段といった兵器全般の習熟だ。
既にそうした資産のおかげで、司令官は戦場の状況をリアルタイムに、昼夜や天候を問わず監視できる状況となっている。
だが、それだけではない。
そうした資産はリアルタイムの諜報(ちょうほう)も可能にしている。これにより24時間、絶え間なく砲撃の調整ができ、標的の敵が前線にいても奥地にいても、精密に攻撃できるようになる。
要するに、これは戦場における作戦の大規模な再設計にほかならない。同時に、時代遅れの型にはまった思考を捨て去ることも意味する。
新しい作戦にはデジタル分野での創造性、電磁環境の管理、攻撃用ドローンとサイバー資産の統合運用が含まれるかもしれない。
そうした作戦は単一の概念や計画のもと、連携して実行される。
重要な点として、目標は焦点となっている戦闘だけとは限らない。
敵の経済力を減退させたり、孤立や疲弊させることも目標となり得る。
攻撃作戦には心理的な目標が含まれることもある。
ただ、そうした点を踏まえたとしても、しばらくの間は戦場の状況の改善が優先項目であり続けるだろう。
そしてそこでは、技術が伝統に対して疑いようのない優位性を誇ることになる。
こうした資産の遠隔制御は、危険な状況に置かれる兵士を減らし、人的損失のレベルを下げることにつながる。
戦闘任務における重い資材への依存度も減らし(完全にはなくならないが)、全体的な戦闘行為の実行を減らす機会ももたらす。
さらに、重要なインフラ施設や通信拠点に対し、高価なミサイルや有人航空機を使うことなく大規模な奇襲攻撃を仕掛けられる可能性も開く。
さらなる利点については、時間がたつにつれ明らかになるだろう。ただ、当然ながら敵もそうした作戦から身を守り、主導権を回復する方法を常に模索している。
従って、防衛システムも常に改善が必要となる。敵による新技術の利用を想定した対抗手段も同様だ。
我々の軍が抱える課題を甘く見ることはできない。
それは技術的な再武装を実現する、完全に新しい国家システムの創造だ。
現時点でのあらゆる事項を考慮すると、そうしたシステムの構築は5カ月でできると我々は考えている。
我々のパートナーも同意見だ。
この期間は、適切な組織構造の構築、陣地への補充と装備支給、訓練と支援の実施、支援インフラと兵たんの構築、軍事ドクトリン(基本原則)の枠組みの開発に使われる。
結論として、2024年、我々は三つの分野に注力する。
我々の軍にハイテク資産を供給するシステムを作ること。
資産の制約やその展開方法を念頭に入れた、訓練や戦争行為に対する新しい考え方の導入。
新しい戦闘能力の可能な限り早い習熟。
我々は敵を排除し、国家としての存立を確保するための能力を既に持っている。
我々の目標はチャンスをつかむことに置く必要がある。最新の戦闘能力を最大限に積み上げ、より少ない資源で敵に最大の被害を与えることだ。それが侵略を止め、ウクライナを将来も侵略から守ることにつながる。
◇
バレリー・ザルジニー氏は2021年からウクライナ軍総司令官を務める。この記事は予想される同氏解任の発表前に書かれた。記事の内容は同氏個人の見解です。