中国の「ジェノサイド」を認定、米国は22年北京五輪をボイコットするのか?
(CNN) 米国はこのほど、中国が新疆でジェノサイド(集団殺害)を行っていると認定した。2022年の北京冬季五輪に向け準備を進める選手や国は、異例なほど道徳的に難しい状況に置かれている。
ポンペオ前米国務長官はトランプ政権最終日の1月19日、ジェノサイド認定を発表。中国最西部で進む少数民族ウイルグル族の組織的な弾圧について注意を喚起した。
米国務省がジェノサイドを認定するのは2016年以来。当時のケリー国務長官は、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」によるイラクやシリアでの残虐行為がジェノサイドに当たると判断した。米政権が進行中の危機にジェノサイドという言葉を適用した例は、これを含め数えるほどしかない。
国連はジェノサイドを「国民的、民族的、人種的、宗教的集団の全部または一部を破壊する意図」と定義する。米国の認定がただちにペナルティーにつながるわけではないが、来年2月の冬季五輪に選手を派遣する予定の90カ国あまりを含め、中国と関与する全ての国に圧力がかかりそうだ。
米国の選手がジェノサイドを実行中と批判された国の首都で競技に臨めば、ごく控え目に言っても、米政府の人権に対する姿勢について相反するメッセージを発することになる。
中国政府はかねてジェノサイドとの指摘を否定し、新疆での政策は脱過激化と貧困緩和の取り組みの一環だと主張してきた。先月には中国外務省の報道官が、ポンペオ氏は「悪意に満ちた」うそを広めていると批判。実際に新疆を訪れて「自分の目で確かめる」よう人々に促した。
オーストラリアや英国、カナダ、米国の政治家は、22年北京五輪に選手団を派遣しない可能性について公に言及している。米上院では共和党のリック・スコット議員ら12人が昨年3月、中国での五輪開催を取りやめ、開催地選定をやり直すよう国際オリンピック委員会(IOC)に求める超党派決議案を提出した。しかし今のところ、正式に不参加を表明した政府や国家レベルのスポーツ協会は出ていない。
CNNは米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)にコメントを求めている。
IOCはCNNに寄せた声明で、中国当局から22年北京五輪で五輪憲章の原則を尊重するとの「確約」を得たと説明した。
声明ではまた「ある国の国内オリンピック委員会(NOC)に五輪開催権を与えることは、その国の政治構造や社会情勢、人権基準に対するIOCの同意を意味するものではない」としている。
活動家や専門家からは、米国の批判を受け、少なくとも部分的なボイコットを求める動きに拍車がかかるのは間違いないとの指摘が出る。昨年9月には世界各地の160以上の人権団体が、IOCに北京開催の見直しを求める共同書簡を送った。
書簡の調整に当たった国際チベットネットワークの幹部マンディー・マキューオウン氏は、仮に今また共同書簡をまとめるとすれば、参加する団体は「間違いなく」増えるだろうとの見方を示す。
同氏は、もし北京五輪が中止にならなければ、国際チベットネットワークは「外交的ボイコット」を呼び掛けると表明。その場合、世界の指導者は訪中を控える一方で、選手団は五輪に参加できる形となる。
五輪の政治利用
五輪を巡ってはこれまで何度も、人権侵害疑惑や政治的思惑からボイコットを求める声が上がってきた。
第2次世界大戦直前の1936年には、ナチス・ドイツの総統ヒトラーが主導したベルリン夏季五輪のボイコットを求める声が各国に寄せられた。
冷戦中には米国やその同盟国が80年モスクワ五輪をボイコットし、旧ソ連も84年ロサンゼルス五輪をボイコットした。
しかし、五輪に関する専門家でミズーリ大学セントルイス校の人類学教授を務めるスーザン・ブラウネル氏によると、1992年のアルベールビル冬季五輪以降は国家によるボイコットは行われていない。
「五輪不参加では何も達成できず、選手を傷つけるだけだという考えから、世界中の政府の間でボイコットに反対する幅広いコンセンサスが生まれた」(ブラウネル氏)
2008年北京五輪を巡っても、中国政府が少数民族チベット族をはじめとする市民の自由を制限していることを理由に、人権団体や非政府組織(NGO)からボイコットを求める声が上がったが、最終的に大会は予定通り実行された。
しかしその後、新疆の収容所をめぐり中国政府への批判は強まっている。これに対し中国政府は、テロ対策の一環でウイグル族を含むイスラム教徒の少数民族に中国語と価値観の教育を行っていると主張する。
正式なボイコットがなかったとしても、22年大会に抗議が集まる公算は大きい。ただ、秩序維持を誇りとする中国では大規模デモは不可能だろう。
国際チベットネットワークのマキューオウン氏は、同組織や他の団体は行動を起こすつもりだと説明。中国政府による人権侵害に注意を向けるため、大会前に世界各地でデモを起こす計画もある。
選手個人が22年大会をボイコットする可能性も残るが、それは長年のトレーニングや実りのいいスポンサー契約について妥協することを意味する。五輪憲章第50条では、選手個人による大会での政治的抗議は禁じられている。