「悪夢」治療のアプリ、イラク帰還兵の父に息子が開発 米
(CNN) イラク戦争から帰還した後、何年も恐ろしい悪夢に悩まされていた元米軍兵士の息子が、治療用のアプリを開発した。父の症状はすっかり消え、このアプリを使ったキットは2020年11月に米食品医薬品局(FDA)の認可を受けた。
米軍兵士だったパトリック・スクルザセクさんは06年からイラクへ派遣され、武装勢力の本拠地だったファルージャとラマディの戦場へ燃料を運ぶ車列を指揮した。1年後に帰還して家族との再会を喜んだのもつかの間、夜な夜な恐ろしい悪夢に襲われるようになった。
「目を閉じるのが怖かった」「生々しい夢にのたうち回り、いつも汗まみれで目覚めた」と振り返る。帰還兵に悪夢障害や自殺が多発することは退役軍人省も把握していたが、解決策があるわけではなかった。
息子のタイラーさん(27)は当時13歳だった。明るく活動的だった父が、帰還後は人が変わったようにふさぎこんで気難しくなり、夜も眠れない様子に心が痛んだという。
パトリックさんは入隊から22年後の12年に除隊したが、悪夢は収まらなかった。何とか眠ろうと酒と睡眠薬に依存し、その量が増えていく。夜中の3時に悪夢で目が覚め、また酒をあおるような状態が続いた。「仕事も妻も住む家まで、本当に何もかも失った」という。
そこでタイラーさんは15年、大学4年生の時にスマートウォッチ用のアプリを開発した。睡眠中の心拍数と体の動きから悪夢を検知し、起こさない程度の軽い振動で夢を途切れさせる。
パトリックさんを実験台に、スマートフォンとスマートウォッチを使って悪夢が完全に消えるまで試作を重ねた。
「ナイトウエア」を搭載した専用のアップルウォッチ/Courtesy of Nightware
パトリックさんの悪夢が始まってから9年が経過していた。「それが突然なくなって人生全体が変わった」と、パトリックさんは話す。現在の妻によると、パトリックさんが隣でうなされ始めるとスマートウォッチが作動し、また眠りに戻っていびきをかき始めるのが分かったという。食欲が戻り、減っていた体重も元通りになった。
タイラーさんはバイオリンが趣味の「おたく」タイプで、パトリックさんとはあまり共通の話題がなかったという。だがアプリの開発を通して父子の距離は大きく近づいた。
父を助けるという目標を達成した後、できるだけ多くの人の助けになりたいと、タイラーさんはアプリを売却した。
「ナイトウエア」と名付けられたアプリは専用のアップルウォッチに搭載され、医師が処方する家庭用の医療機器として認可された。アップルのスマートフォン「アイフォーン(iPhone)」を通して、睡眠パターンの記録が担当医に送られる。
ナイトウエアはすでに、重度の悪夢障害を抱える退役軍人らに優先的に処方されている。退役軍人省と国防総省の承認が得られれば、21年前半のうちに患者負担金なしで使えるようになる可能性がある。この制度の対象から外れる患者についても、支援措置を設けることが検討されている。