人間嫌いが集う台北のバー「厭世会社」、気になる店内の様子は
台北(CNN) 行き止まりの路地の陰で、一体の骸骨が、ワイングラスとたばこを手に持ち、壁に寄りかかりながらバースツールに腰かけている。
ここ「厭世(えんせい)会社」は、世間の人々から離れて、酒を飲んだり、食事ができるバーだ。
このバーでは、創造性に富んだカクテルに加え、ブラックユーモアや人間に対する嫌悪も提供する。
この店のカクテルには、暗く、陰気な名前が付けられている。例えば「幽霊島茶」は、台湾のスプリングウォッカとカバランウイスキーに少量のテキーラ、カルーア、ベルモット酒、レモン汁を加えたカクテルだ。
またジンベースの「最後の言葉」というカクテルを注文すると、自分が死に際に言うセリフをカードに書くように丁寧に依頼され、店内のカードの山に加えられる。
店自体は、ダークユーモアと暗い装飾が特徴だ。店の壁、メニュー、皿はすべて黒で、フライドチキンですら黒色をしている。鶏肉を台湾の伝統的な豆腐に漬けた後、アルコールをかけて焼く。
食事をする客は、まるで黒焦げの遺体のようなフライドチキンから吹き上がる炎をじっと見つめる。料理から連想するイメージは地獄そのものだ。
「好きなだけこの世界を憎んで」
このバーのオーナー、チェン・シャオガイさん(28)は、過去に重いうつ病を患った経験があり、悩みを抱える人々にとって快適な空間を提供したいと考えた。
「われわれは、この場所を『厭世会社』と呼んでおり、ここでは、その名の通り、好きなだけ世界を憎める」とチェンさんは言う。
「負の側面を抱える方々に来ていただきたい。ここに来れば、互いに助け合ったり、人の優しさを体験できる」(チェンさん)
アルコールの炎を吹き上げながら真っ黒に焼けるフライドチキン/The Misanthrope Society
昨年2月にオープンした厭世会社は、台北で最もおしゃれで活気のある地区のひとつにあり、衣類や軽食を販売しているにぎやかな夜間市場のど真ん中に位置する。また、地下鉄の公館駅から徒歩1分以内という好立地だ。
しかし、チェンさんは、人間社会に対する嫌悪を公言するバーにふさわしい場所を何とか探し出した。そこは、行き止まりの道の暗い一角で、日も全く当たらない場所だが、店内には人の温かさがある。
かつてエンジニアだったチェンさんは、精神療養病院に1カ月間入院した後、このバーの開店を思い立った。入院中は心理学者や医療関係者のケアを受けたが、退院後はサポートを打ち切られたように感じたという。
「私の場合、負の側面から抜け出す上で最も重要なのは人々からの助けだと考えている。つまり病院で出会った友人たちだ」とチェンさんは語る。
しかし、うつ病を患っている人は飲酒をしない人が多い。飲酒で症状が悪化したり、服用している薬との飲み合わせが悪いとの理由からだ。その点、厭世会社はバーであると同時にコーヒー店や本屋でもあるので、酒を飲まなくてもコミュニティーの感覚を味わえる。
泣きたい人、チェンさんと話がしたい人、ただ店にいたい人、店内の本を読みたい人など、来店理由はさまざまだ。同じようなメンタルヘルスの問題を経験した十数人の常連客は、この店で知り合い、自分たちの支援ネットワークを構築した。
台湾では、メンタルヘルスはあまり話題に上らないため、今でも誤解を受けたり、病人の烙印(らくいん)を押されることが多い。
「以前は、メンタルヘルスの問題を抱える人々が話せるのは家族や友人だけだった。しかし、家族や友人は彼らのことを本当に理解することはできない。特にわれわれの両親、年配の人たちは、メンタルヘルスの問題など全く分からないか知識がない」とチェンさんは言う。
厭世会社は「バーらしくない」という言い方は、正しくないだろう。世界中どこでも、1人で酒を飲む多くの人は、バーにいる他の客からの癒やしを求めてきたからだ。しかし、厭世会社は、負の側面をあえて面白おかしく強調することにより、少しばかりの思いやりを期待する人だけでなく、一風変わった店で飲みたい人も引き付けている。
店を出る時目に入るドアにはこう書かれている。「本当に日常生活に戻りたいですか」