日本で大人気のビーフコロッケ、予約30年待ち
神戸牛の値段や人件費が高騰する中、30年分の採算割れの注文を抱えているのは、ストレスがたまるに違いない。
だが、それよりも大事なことが新田さんを突き動かしているという。
旭屋がコロッケのインターネット通販を始めた頃は離島からの注文が多かった。こうした客の多くは、テレビを通じて神戸牛について聞いたことはあったが、都会に出ないと食べられないため、一度も食べたことがなかった。神戸牛を食べたことがない人がこんなにもたくさんいるということを、新田さんは知ったのだという。
こういった背景から、試しでコロッケを食べてもらい、気に入ったら神戸牛を注文してもらうというやり方を新田さんは続けてきた。元々、多くの人に神戸牛を食べてもらいたいという思いから極みコロッケの販売を始めたので、赤字でもいいと思っていたという。
新田さんが、これまでで最も印象に残っている出来事の一つに、手術を控えたがん患者からコロッケの注文を受けたエピソードがある。その人は、極みコロッケの予約待ちをしている客であった。
新田さんを最も驚かせたのは、その患者にとって旭屋のコロッケが手術へのモチベーションになったということだった。
一命を取り留めたその患者は、その後、何度も注文してくれた。
コロッケを食べたその人は新田さんに電話をかけ、がんを再発させずに長生きしたいと伝えたという。その言葉に新田さんは感動し、今でも覚えていると回想した。
より多くの人に神戸牛を楽しんでもらいたい――。コロッケの知名度が上がることで、今まで神戸牛に興味がなかった人にも興味を持ってもらえれば、自分の店だけでなく業界全体の振興にもつながると新田さんは願っている。
今すぐビーフコロッケを試食するには
旭屋は高砂市の本店と神戸市の店の2店舗を構えている。冷凍のビーフコロッケは国内発送のみ。
神戸の店舗では、「北野坂」と「TOR ROAD」という2種類のコロッケを販売している。
「北野坂」は牛肉の赤身を使用し、価格は1個360円。「TOR ROAD」は、ロースと肩ロースなどを使用し、価格は1個460円。
肉は40日間、ジャガイモは1カ月間熟成させ、甘みを引き出している。
新田さんは将来、事業拡大も検討している。神戸にある店舗は観光スポットになっているため、イートインできる小さなスペースを作りたいという。ただ、レストランにしてしまうと、旭屋の肉を供給している近隣のレストランには迷惑になるかもしれないとも語っている。