飛行機を改修して自宅に 気になる暮らしぶりや費用は?
(CNN) 火事で家を失ったジョー・アン・ウセリーさんは、飛行機に住むという奇抜なアイデアを思い付いた。
ウセリーさんは、スクラップヤードに送られる予定だった古いボーイング727を購入した。そして、その機体をすでに所有していた土地に輸送し、6カ月かけてリフォームした。改修作業はほとんどウセリーさんが自分で行った。
そしてついに、完全に設備が整った「住宅」を手に入れた。居住部分の広さは約140平方メートルで、3つの寝室と2つのバスルームを備え、かつての操縦室には浴槽もある。総費用は3万ドル足らずで、現在のお金に換算するとおよそ6万ドル(約820万円)だ。
ウセリーさんは、米ミシシッピ州ベノア出身の美容師で、航空業界と職業上のつながりは一切なかったが、航空管制官である義理の兄弟の風変わりな提案に従った。
その飛行機に住んだのは1995年から99年まで。機体は99年に修復不可能な損傷を受けた。一般公開するために近くの別の場所に輸送中、トラックから落下したのだ。
ウセリーさんは飛行機に住んだ最初の人物というわけではないが、飛行機に住む計画を完璧に実行したことで他の人々に刺激を与えた。
90年代後半、自家用機用のパイロット免許を持つ電気技師のブルース・キャンベルさんは、車で帰宅中にたまたまラジオで聞いたウセリーさんの話に感銘を受けた。
森の中の727
キャンベルさんは現在、オレゴン州ヒルズボロの森の中で、20年以上にわたり、自ら所有する飛行機に住んでいる。キャンベルさんの「自宅」もボーイング727だ。
飛行機を自宅にする計画にかかった総費用は22万ドルで、今日のお金に換算すると約38万ドル(約5200万円)だ。そのうち約半分は飛行機の購入費に充てた。
キャンベルさんの飛行機は、かつてギリシャのオリンピック航空が所有していた飛行機で、75年に同航空会社のオーナーだったアリストテレス・オナシス氏の遺体の輸送にも使われたが、キャンベルさんは当時、その事実を知らなかったという。
当初、機内の内装は見た目が古く、ひどい状態だったため、改修工事が必要で、住める状態になるまでに数年を要したという。
現在も機内に余計な装飾はなく、プラスチックのシリンダーでできた簡素なシャワーとベッド用のソファがあるだけだ。
冬の最も厳しい時期は、亜熱帯気候の日本の宮崎市で過ごす。キャンベルさんは宮崎市に小さなアパートを所有しているが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の影響で、日米間の行き来が困難になったため、ここ3年間は1年中米国にある727の機内で暮らしている。
キャンベルさんは頻繁に来客があり、客を無料で機内に泊めることもある。また夏には大規模なイベントも開催しているという。
2つの機体に住む
ジョー・アクスラインさんが所有する2つの機体/Joe Axline
飛行機に住むだけでも十分ぜいたくな気がするが、1機では足らず、2機の飛行機に住む計画を立てている人もいる。ジョー・アクスラインさんはマクドネル・ダグラスMD―80と同DC―9を所有しており、この2機はテキサス州ブルックシャーの土地に並べて置いてある。
アクスラインさんは、2011年4月に離婚した後、MD―80に10年以上住み続けており、今後DC―8を改修し、映画館や音楽室といった娯楽スペースを設ける計画だ。予算はプロジェクト全体で25万ドル(約3400万円)足らずだという。
土地は所有しており、独自の井戸と下水道システムを構築しているため、ランニングコストはほとんどかからない。「費用がかかるのは電気代くらい」だという。
アクスラインさんは長い間、この飛行機で子どもたちと暮らしていたが、子どもたちはすでに独立し、現在は一人暮らしだという。機内には主寝室とリビングがあり、さらにシャワーやトイレも備える。ただ開閉式の窓がないため、飛行機のドアを開けて新鮮な空気を取り込んでいるという。
2機の飛行機は近くの道路から見えるため、多くのドライバーが好奇心にかられて立ち寄るという。「毎日3~4人の来客がある」とアクスラインさんは言う。
当初興味があったのはボーイング747だった。「空の女王」と呼ばれる747に住むというのは、飛行機住宅のオーナーたちにとって究極の夢だ。しかし、輸送費があまりに高額なため断念した。機体自体の価格は約30万ドル(約4100万円)だが、機体の輸送に50万ドル(約6800万円)もかかる。飛行機は道路を走って移動するわけにいかず、一度ばらばらに分解し、輸送後に組み立て直す必要があるため、高額な費用がかかるのだという。
立ちはだかる多くの課題
スウェーデンの空港敷地内にあるボーイングの中に作られたホテル、ジャンボステイ/Courtesy Jumbo Stay
飛行機の家で1~2泊してみたい人は、飛行機を改装して作ったホテルに泊まるという方法がある。
中米コスタリカのホテル、コスタ・ヴェルデでは、完全に改装されたボーイング727に宿泊できる。客室は、2つの寝室とオーシャンビューのテラスを備えている。
またスウェーデンのジャンボステイは、ストックホルムのアーランダ空港の敷地内にあるボーイング747の中に作られたホテルだ。
しかし仮住まいではなく、機内での生活に完全に移行したい人は、さまざまな課題に備える必要がある。
「まず、飛行機に住みたいという情熱を持つ必要がある。対処すべき問題が非常に多く、打ちのめされる可能性があるためだ」とジョー・アクスラインさんは言う。
アクスラインさんは特に大きなハードルの例として、ちょうどいい機体の調達と、飛行機を置くのに最適な場所を見つけること、の2点を挙げた。
ブルース・キャンベルさんの来客の中には何人かこのライフスタイルに興味を示した人はいたが、その夢を実現させた人が1人もいないのは、恐らく、クリアしなければならない課題の多さが原因だろう。
しかし、あきらめるのはまだ早い。キャンベルさんは次のようにエールを送る。
「とにかくやってみよう、というのが私の一番のアドバイスだ。誰に何を言われても気にせず、自信を持ってすべての計画を実行しよう。行動あるのみだ」