OPINION

米共和党が陥る「トランプ後」のジレンマ

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共和党上院トップのマコネル氏。トランプ氏の動向により同党の命運も左右されそうだ/Michael Reynolds/EPA-EFE/Shutterstock

共和党上院トップのマコネル氏。トランプ氏の動向により同党の命運も左右されそうだ/Michael Reynolds/EPA-EFE/Shutterstock

(CNN) 米共和党が巨大なジレンマに直面している。いったいドナルド・トランプ前大統領をどのように扱えばよいのか。先ごろ45人の共和党上院議員がトランプ氏の2度目の弾劾(だんがい)裁判をすべきでないとの票を投じたが、彼らは党の抱える複雑な問題と、異なる派閥が党内で形成されつつある実態とを浮き彫りにする存在だ。これらの派閥には、それぞれ入り組んだ思惑がある。

リチャード・N・ボンド氏
リチャード・N・ボンド氏

第1のグループは声の大きい反対論者たちが占める。これまでトランプ氏への怒りに満ちた反対意見を表明してきた人々で、具体的には上院議員のスーザン・コリンズ氏、リーサ・マーカウスキー氏、ミット・ロムニー氏、ベン・サス氏、パット・トゥーミー氏らが該当する。この対極に位置するのが、トランプ氏の真の信奉者たちだ。代表格のリンゼー・グラム上院議員は、ストックホルム症候群と診断してもよいのではないかと思えるほど卑屈なまでにトランプ氏に傾倒している(同氏は1月6日に大統領選の結果を承認する票を投じたが、連邦議会議事堂での暴動が起きた後であり、遅きに失したのは明白だ)。同氏以外では、どうやらトランプ氏の後継者を目指しているらしい上院議員のテッド・クルーズ氏、ジョシュ・ホーリー氏がいる。両氏は政界の「不名誉の殿堂」で、それぞれの居場所を手に入れた。熱心にトランプ支持者の機嫌を取り、おそらく自らの大統領選への出馬も念頭に置きつつ、彼らは大統領選の結果に異議を唱える「Stop the Steal Movement(盗みを止めろ運動)」に対してお墨付きを与えた。この運動が上記の暴動につながったのだ。

そして保守派の憲法論者たちがいる。トム・コットン氏、ランド・ポール氏をはじめとするこれらのグループは今回の弾劾裁判は違法だと本心から信じているわけだが、弾劾それ自体の根拠については沈黙を貫く。それからマルコ・ルビオ氏やジョン・スーン氏といった政治的な計算に余念がない人々。彼らは2022年の予備選で地元にトランプ派の対立候補を擁立される事態を避けたいと思っている。このほか日和見主義者の一団に属するロイ・ブラント氏は1月6日の暴徒を非難する一方、トランプ氏に彼らを扇動した責任があるとは認めない。上院議員30人近くからなるこのグループはトランプ氏への対応を先送りし、今後の展開次第で身の振り方を決める考えだ。

上院議員の中には、ミッチ・マコネル氏やロブ・ポートマン氏のように弾劾裁判でトランプ氏への反対票を投じる可能性のある人たちもいるが、共和党議員17人が民主党議員50人に加わる公算は小さい。これが実現すれば3分の2以上の多数の賛成によりトランプ氏を有罪にできる。ただ状況は依然として流動的だ。

トランプ氏の弾劾裁判の弁護団からは離脱者が相次いでいる。同氏が愚かにも弁護の焦点を選挙不正に絞るよう要求して譲らず、暴動をあおったとの主張に異議を唱えるという訴訟戦略に従わないためだ。トランプ氏がこのやり方に固執するなら、選挙不正という根拠のない主張は共和党上院議員の心証を害し、彼らに有罪票を投じる動機を与える可能性がある。これらのすべてを考慮したうえで浮かぶのは、以下の疑問だ。今後トランプ氏と共和党はどうなるのか?

弾劾裁判の結果次第で、2つの可能性があるように思われる。1つはトランプ氏の存在感が低下し、党内で果たす役割が徐々に縮小していくシナリオだ。トランプ氏が有罪になれば、こちらの展開で確定するだろう。しかし仮に有罪にならなかった場合、もう一つのシナリオではトランプ氏が重厚な存在感を発揮するようになる。引き続き共和党を支配しようとし、再び大統領選に打って出ることになる。

まず、トランプ氏の存在感が低下するシナリオを考えよう。ここでは同氏が先へ進むうえで直面する障害について扱う。筆者はこのシナリオこそが最も実現する可能性の高いトランプ氏の運命だと確信しており、たとえ有罪にならなくてもそれは変わらない。ここで予見されるトランプ氏の役割は、活発ではあっても支配的ではない。結果として、24年の大統領選出馬を目指すこともなくなる。

トランプ氏の支持率は、共和党支持者の間のものも含め、急落すると予想できる。弾劾裁判で証拠が提示され、警察の報告などから逮捕された暴徒がトランプ氏の指示に従ったと主張していることが明らかになるためだ。恐ろしい暴力の場面を映した新たな動画も証拠として公開されることになる。さらに不都合なのがクリストファー・ミラー国防長官代行の説明だろう。ミラー氏は米誌バニティーフェアの取材に対し、暴動の前夜にトランプ氏から州兵1万人を動員して群衆を統制するよう勧告を受けたと語った。これはトランプ氏が当該のデモ活動について、統制の効かない事態に陥る可能性を認識していたことを示唆する。同氏は1月6日当日に支持者に向かって「もっと必死で戦え」「強さを見せつけろ」と呼び掛けていたが、その前から統制が失われる危険を想定していたとみられる。

ソーシャルメディアのメガホンがなくなり、トランプ氏は自らの「大うそ」戦術を実行するための最も効果的な経路を失った。支持者に対し、選挙が自分の手から盗まれたと信じ込ませるのはこうした戦術の一例だが、トランプ氏は不正が起きたという証拠を一切示していない。米紙ワシントン・ポストが列挙したところによれば、トランプ氏が大統領時代に行った虚偽の主張、誤解を招く主張は計3万573件に上る。またある研究では、トランプ氏がソーシャルメディアを失ってからの1週間で選挙不正にまつわる誤情報が70%以上減少したことが分かった。同氏の公の発言を封じることがいかに効果的かが浮き彫りになった形だ。

トランプ氏は深刻な訴訟問題にも直面している。ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は、トランプ氏の中核企業「トランプ・ オーガナイゼーション」を対象に脱税の捜査を実施。一方、マンハッタン地検のサイラス・バンス検事は、女性2人への口止め料支払いの疑いで捜査に着手した。これはトランプ氏の事業活動に対する犯罪捜査へと拡大している。またトランプ氏は自らに恩赦を与えることなく大統領職を退いたため、連邦法上の訴追の可能性は枚挙にいとまがない。実際、下院歳入委員会のリチャード・ニール委員長(民主党)は改めてバイデン政権下の財務省に呼びかけ、トランプ氏の納税申告書の議会提出を求めている。こうした法的な苦痛は今後数年にわたってトランプ氏を悩ませるだろう。同氏が犯罪を犯している可能性(もしくはその事実)が報じられれば、本人の公的評価は一段と損なわれるはずだ。

資金問題も深刻だ。ドイツ銀行、シグネチャー・バンク、バンク・ユナイテッド、プロフェッショナル・バンクなど数多くの銀行はもはや前大統領との取引を行わない。米紙ニューヨーク・タイムズ、英紙フィナンシャル・タイムズ、米経済誌フォーブスが報じたところによると、トランプ氏には4億2100万~11億ドルの負債があり、向こう4年で返済期限を迎える。厳しい財政状況を切り抜けることにかけては年季が入っているトランプ氏だが、多くの金融機関から距離を置かれる現状では、法廷闘争や、ビジネスを苦境から救い出す取り組みにも支障が出るだろう。

結果として、ソーシャルメディアのプラットフォームからの排除、刑事訴追の可能性、深刻な資金問題は、トランプ氏の復活の試みを頓挫(とんざ)させる公算が大きい。

しかしながら、トランプ氏が驚くべき能力の持ち主で、一見すると乗り越えられそうにない障壁にも打ち勝ってしまう可能性を考慮すると、我々としては第2のシナリオを想定しておかなくてはならない。つまり、トランプ氏の影響力が共和党内で一段と重みを増すというシナリオである。ここで予見されるのは、前大統領が再び傑出した公職の権威を確立し、資金を集め、政治的に重要な存在であり続ける展開だ。行きつく先は、24年大統領選での共和党候補の指名獲得となる。

トランプ氏が自らの支持基盤とのつながりを取り戻すことは可能だ。支持者から資金を集めれば、何としても必要な現金も確保できる。投資金融専門紙のバロンズの推計によると、トランプ氏がテレビネットワークを運営する場合(番組の配信を担うITやメディアの事業者がついたと仮定して)、500万人の視聴者に月5ドルを課金することで年間3億ドルの収益を生み出せる。加えて、同氏が自身の電子メールリストへのアクセスを回復できれば、有料のニュースレターを月額料金の支払いと引き換えに提供することもできる。同氏の電子メールリストは議事堂乱入事件の後、デジタルプロバイダーのセールスフォースによって停止されているが、トランプ陣営は約2000万人の支持者のメールアドレスを確保しているため、ニュースレターの事業が実現すれば巨額の収益が見込める。

トランプ氏が司会を務めるテレビ番組がFOXニュース、ニュースマックス、アメリカワンといったメディアで放送される可能性もある。これもやはり、資金稼ぎと支持者とのつながりの再構築という二重の戦略に資するものとなるだろう。またトランプ氏が健康不安の伝えられる保守派の論客、ラッシュ・リンボー氏のラジオ番組の司会者として招かれるかもしれない。報道によると同番組の聴取者は1550万人。リンボー氏の病状が悪化してマイクの前に座れなくなる時には、トランプ氏が後を引き継ぐことも想定される。

他の政治家への支持や集会の開催を通じても、トランプ氏は公的な地位を維持するだろう。同氏から公認を得たいとの需要は幅広い。とりわけ共和党候補者で、トランプ氏が自らの弾劾に公然と賛成した上下両院の共和党議員に復讐(ふくしゅう)するのを助けたいと考える人々はこれを求めている。下院共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務は最近、トランプ氏と会談し、22年中間選挙での同氏の関与について話し合った。これは共和党指導部が依然としてトランプ氏の潜在力を信じ、党の支持基盤の有権者にアピールできる存在とみなしていることを示唆する。

根本的な問題として、トランプ氏の主導する個人崇拝が共和党のリーダーらに同氏への恐怖心を抱かせている。上院での弾劾裁判で有罪票を投じるのを思いとどまる議員もいるかもしれない。例の「大きなうそ」戦術に洗脳された国内各地の米国民は、同氏の言うことならなんでも信じてしまう。おそらく最も強力な、そして道徳的には全く非難されるべき手法だが、トランプ氏はこれを用いて共和党をこの先も支配下に置くことができる。

弾劾裁判後、共和党は岐路に立たされる。所属議員たちの行く手には何が待つのか? 前大統領の影響力が向こう数年で低下するシナリオだろうか? はたまた重厚な存在感で復活を果たしたこの人物が、航海士さながらに自ら作り上げたサメだらけの海を突き進むシナリオだろうか? 答えは、その時になってみなければわからない。

リチャード・N・ボンド氏は1992~93年にかけて共和党全国委員会の委員長を務めた。記事の内容はボンド氏個人の見解です。

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