電力網に警鐘、気候変動の影響「耐えられない」 米
(CNN) 例年以上の暑さと予想される夏に向けて気温が上昇する中、米国各州は電力供給不足でこの先数カ月の需要を満たすことができないのではないかと電力の専門家や関係者は危惧している。異常気象の度合いや頻度がますます増しているにもかかわらず、電力会社の多くは事業計画の際に気候変動を考慮していない。
こうしたことすべてをふまえると、今年の夏だけでなくこの先何年もまだまだ停電に見舞われることになりそうだ。
米国中央部の電力会社は夏に向けた準備報告書で、「安定供給が十分確保できず、夏の電力ピーク予想を賄うことができなくなる」とすでに予測している。こうした評価は過去の気象データや、今夏はさらなる異常気象に見舞われるという米海洋大気局(NOAA)の最新の予測を物語っていた。
だが電力の専門家がCNNに語ったところによれば、一部の電力会社は、頻発する異常事態など気候危機が天候にもたらす影響を考慮していないという。信頼できる電力網の構築を本気で考えているなら、これは問題だ。
コロンビア大学サビン気候変動法センターの研究員ロマニー・ウェブ氏は「現実を見れば電力システムは老朽化している。インフラの多くは気候変動が問題になる前に建てられた。気候変動の影響に持ちこたえられるようには設計されていない」と語った。
ウェブ氏によれば、送電網運営会社の多くは、より深刻な気象予報ではなく、むしろ過去の気候データを投資の判断材料にしているという。すでに起きたことに投資するのではなく、これから起きるかもしれないことに投資することで財政的な損失を被るという可能性を避けたいためだ。ウェブ氏は、こうしたやり方は間違っており、電力網を脆弱(ぜいじゃく)にすると言う。
「電力会社には、事業計画の策定で気候変動を考慮したがらない傾向がある。気候変動関連の科学はあまりにも不確かだというのが言い分だ」とウェブ氏。「現実は、気候変動が現在進行形で発生し、より激しい熱波やハリケーン、かんばつといった形で影響が出ている。こうしたことが原因で電力系統に被害が出ていることも周知の事実だ。こうした影響を無視すれば、問題を悪化させるだけだ」
テキサス州では5月初めに早くも熱波に見舞われ、6カ所の発電所が停電した。住民は電力使用を制限し、エアコンの温度を約25度以上に設定し、電力ピーク時には大型家電の使用を控えるよう求められた。テキサス州の電気信頼性評議会(ERCOT)は信頼性季刊報告書の中で、2006~20年の平均気温に基づき、同州の電力網は夏に備え、「通常の」夏の気候に耐えられるだけの「十分な」電力を確保しているとしている。
だが先ごろNOAAが発表した予測では、この夏は全米各地で例年以上の暑さになるとみられている。
ウェブ氏はCNNに対し、「いまだに過去の気象パターンに基づいて施設の設計や建設が行われている。気候変動の時代、将来の気候とは似ても似つかないのはわかり切っているのに」と語った。
異常気象の予測に向き合わないことで自ら盲点を作りだしているのではないかと尋ねると、ERCOTの広報担当者は、報告書は「シナリオ・アプローチの手法を用いて、異常気象もいくつか想定に入れた緊急事態に基づいた供給力評価の結果を幅広く提示したものだ」と答えた。
全米の電力インフラの状態を監督する北米電力信頼度協議会(NERC)は予測に関してはそこまで楽観的ではない。
NERCは最新の信頼度季刊報告書で、今夏のテキサス州の停電リスクを「上昇中」とした。また全米の大半がこの夏十分な電力を確保できる一方、いくつかの地域は電力危機の危険にさらされるとも報告している。
カリフォルニア州の電力会社も夏の信頼度報告書で、「直近20年間の過去の気象データ」をもとに事前分析を行った。この報告書にも、分析結果は「異常気象により引き起こされる負荷や供給といった不安定要素を十分に反映してはいない」と記載されている。
米国の電力需給の問題をさらにややこしくしているのが、かんばつだ。NERCがCNNに語ったところでは、全米の水力発電ダムの安定供給量は2%減少しているという。それに加え、多くの石炭火力発電所が急速に廃止された。その一方で、いまや歯ブラシから車に至るまで、ほとんどあらゆるものが電化している。より多くの再生可能エネルギーを電力構成に加えれば、温室効果ガス排出を促す気候変動を抑えるだけでなく、国内の電力供給を増やすこともでき、二重の効果がもたらされるだろうと専門家は言う。
まさかの備え
シカゴ近郊のある地域では、大規模な電力網が停電した際にも明かりや空調、暖房を引き続き使用できるよう、すでに計画を立てている。
シカゴのサウスサイドにあるブロンズビル地区では、公共集合住宅の屋根に太陽光パネルが点在している。車を少し走らせた先には、太陽光パネルや天然ガス発電機で発電した電気を蓄える巨大な蓄電池があり、小規模な電力網を構成している。イリノイ州の電力会社コモンウェルス・エジソン社は、地域関係者と協力してエネルギー自給自足を目指している。
同社のエンジニアの1人ポール・パブスト氏は「電力がないと命にもかかわる事態になりかねない。こうした小規模な電力網があれば、(主要)電力系統が機能しなくなっても、バックアップとして電力を供給できる」と語った。
このプロジェクトは現在承認待ちだが、いったん稼働されれば、主要電力系統に接続して電力を共有することが可能になる。停電の際には接続を切り離して独自に稼働し、蓄電池の電力を活用して地域内の家庭や警察、病院に4時間分の電力を送電することができる。
ブロンズビルの住民で、電力改革を訴える活動家のヤミ・ニューウェルさんは、シカゴの不安定な電力供給網による連鎖被害を目の当たりにしてきた。シカゴも例にもれず、異常寒波と異常熱波の両方で停電に見舞われた。熱波で停電になれば命が危険な状況にもなりかねない。年金暮らしの家庭にとっては、冷蔵庫から食料がなくなることで金銭的にも苦しくなる。
ニューウェルさんはCNNに「電力危機は公衆衛生危機にもなりえる。食糧危機につながる可能性もある」と語った。
画期的な方法でより柔軟な電力網の構築が各地で模索される中、ブロンズビルはひとつの事例となる可能性がある。各州でより順応性の高い電力網が構築されるまで、電力会社は気候変動によって緊急措置を講じ続けなくてはならないだろう。供給が需要に追い付かなくなった際には電力網維持のために、人々は電力使用の制限や強制的な輪番停電を要請されることになりそうだ。