(CNN) 昨年1月6日の米連邦議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会はここまでの公聴会で、襲撃までの数日間に誰が・いつ・何を知っていたか、時系列的に順を追ってひもといてきた。
28日の公聴会はかなり様相が違っていた――トランプ大統領の首席補佐官を務めたマーク・メドウズ氏のもとで、主任補佐官として勤務していたカシディー・ハチンソン氏が、その日の出来事についてセンセーショナルな内幕、とりわけドナルド・トランプ前大統領の行動を明らかにしたのだ。
ひとことで言えば、醜悪だった。
とくに目を引くのが3つの出来事だ。
1)ハチンソン氏は人づてに聞いた話として、トランプ氏が通称「ビースト」こと大統領リムジンに再び乗り込んだ時のことを語った。連邦議事堂でデモ隊に加わることはできないと言われたトランプ氏は我を忘れた。前大統領は車のハンドルを握ろうとしたが、シークレットサービス(大統領警護隊)が身を乗り出して制止すると、その隊員の喉元(のどもと)をつかんだ。
2)「ストップ・ザ・スティール」集会での演説前、トランプ氏は罵倒の言葉をふんだんに織り交ぜながら、武器を携行していた人々――銃やナイフなど――を金属探知機にかけずに中に入れろと言い張った。その意図は? 集会のもようを収めた写真や動画に、詰めかけた群衆が演説に耳を傾けるようすが映るようにするためだ。「彼らは私を傷つけるために来たわけではない」と、トランプ氏は周囲にそう語ったと報じられている。
3)ハチンソン氏によれば、「マイク・ペンスを絞首刑にしろ」という掛け声が連邦議事堂に響いていた頃、パット・シポローニ大統領顧問に問いただされたメドウズ氏はこう言った。「(トランプ氏は)マイクには当然の報いだと考えている。群衆が間違ったことをしているとは思っていない」
考えてみてほしい。米大統領はリムジン乗っ取りを試み、それを止められると、自分の警護を任じられた人間に手を出した。大統領は集まった人が武装していると知っていながら、大盛況に見せたいがために、囲われたスペースに彼らを入れろと言い張った。副大統領を絞首刑にかけろと人々が叫ぶ中、トランプ大統領はそれが当然の報いだと言った。
現実というよりも、お粗末なテレビ映画の筋書のようだ。しかもこれらはすべて、数千人の群衆が議事堂を襲い、5人が死亡して100人以上の警察官が負傷したのと同じ日の出来事なのだ。
それぞれの場面で、トランプ氏は自らの権力――あるいは暴徒の権力――が少しでも奪われることに怒りを表している。ハチンソン氏の証言から浮かび上がるトランプ像は、怒りに我を忘れて自制心を失い、その間も2020年の大統領選挙で票が盗まれたという嘘(うそ)をあおり、1月6日にワシントンに集結して選挙結果に抗議しようと支持者に呼びかけた人間だ。
元大統領主席補佐官ミック・マルバニー氏は、28日の公聴会でトランプ前大統領が痛手を負ったことを認めた。「デモ参加者が武器を携帯していたのを知りながら、大統領が議事堂への行進を促したのなら重大問題だ」とマルバニー氏はツイートした。
それに、こうした行動は1月6日に限った話ではない。選挙が終わってから数カ月間、トランプ氏の言動は普通ではなかった。
ハチンソン氏は、20年12月初めにウイリアム・バー司法長官がAP通信とのインタビューで「選挙結果に影響をおよぼせるほどの選挙不正は見当たらなかった」と語った直後のことを振り返った。同氏が大統領のダイニングルームに入っていくと、給仕係が掃除しているのが目に入った――壁にはケチャップがしたたり落ちていた。「司法長官のAP通信のインタビューに激怒した大統領が、壁に昼食を投げつけたのだ」
トランプ氏のそのようなふるまいはその時1度だけかという質問に、ハチソン氏は違うと答えた。「私が知るだけでも何度か、トランプ氏は皿を投げたりテーブルクロスをひっくり返したりして、テーブルの上のものを全部床にぶちまけた」
ここで描かれるトランプ氏は、何がなんでも権力の座にしがみつく男だ。やりたい放題できる絶対的権力を持っていると信じて、それを奪おうとする試みには抵抗する――残る任期中、あらゆる必要な手段を使ってでも。
醜悪だが、残念ながらこれが真の姿だ。
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本稿はCNNのクリス・シリザ編集主幹による分析記事です。