ANALYSIS

欧州議会選での極右急伸、トランプ氏にとっての予兆か

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選挙集会で演説するトランプ前大統領=9日、米ネバダ州ラスベガス/Brandon Bell/Getty Images

選挙集会で演説するトランプ前大統領=9日、米ネバダ州ラスベガス/Brandon Bell/Getty Images

(CNN) 英国で2016年6月に行われた国民投票では、ポピュリスト勢の反乱で欧州連合(EU)離脱が決定した。数カ月後に政治経験のないドナルド・トランプ氏がまさかの当選を果たすことを予兆する出来事だった。

時は替わって24年6月。トランプ氏と同様に大衆迎合的なナショナリズムを掲げ、移民に反感を抱き、痛烈な経済批判を展開して、政界のエリート層や国際機関に冷ややかな視線を投げる極右系候補者は欧州議会選挙で急激に議席数を増やした。

またもや政界に衝撃が走ろうとしているのだろうか。

米国の有権者が国外の選挙に左右されることはない。米大統領選挙は州単位で行われ、欧州議会選挙の仕組みとはまるで異なる。それに8年前トランプ氏が当選したのは、ブレグジット(英国のEU離脱)よりも、民主党候補だったヒラリー・クリントン氏の陣営の力量不足によるところが大きい。だがジョー・バイデン米大統領は懸念するべきだ。先の欧州議会選挙は、さまざまな思いをない交ぜにした強力な政治的メッセージの試金石だった。制御不能と思われる移民状況に対する大衆の怒り、物価上昇に見舞われる有権者の痛み、気候変動対策で個人に重くのしかかる負担。こうしたテーマは大統領選の行方を左右する激戦州でトランプ氏が取り上げているのと同じものだ。

欧州議会選挙でもうひとつ学んだ教訓は、このインフレ時代、不満を抱える有権者を前に現職首脳は苦しい立場に置かれているという点だ。バイデン大統領は今週、イタリアで行われる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するが、バイデン氏以外にも西側4カ国の首脳が政治的勢いを失いつつある。フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相は欧州議会選挙で有権者から非難を浴び、欧州の負の遺産を再び口にする極右政党に勝利を譲る形となってしまった。カナダのジャスティン・トルドー首相は支持率が低迷し、来年末に予定されている国政選挙で与党・自由党を勝利に導けるかどうか怪しい。英国のリシ・スナク首相は来月行われる総選挙で大敗し、14年続いた保守党支配にピリオドが打たれることが予想されている。皮肉なことに、G7首脳で最も安泰なのは、しょっちゅう政権が交代することで有名なイタリアのジョルジャ・メローニ首相だ。所属する右派政党が欧州議会選挙で大勝し、同氏は大西洋東岸で最も影響力を持つ首脳の一人となった。

おそらくバイデン氏の救いは、反旗を翻すアウトサイダーと人気のない現職大統領の対立という構図が米国の選挙では通例ではない点だろう。様々な意味で、トランプ氏も現職といえる。任期中に波紋を呼んだ政策を自慢の種にし、2度の弾劾(だんがい)裁判と有罪評決を受けた前大統領という政治的ハンデを抱えている。大衆迎合的なナショナリズムがそこら中で盛り上がっているというわけでもない。22年の中間選挙ではバイデン氏が大方の予想に反し、共和党の「米国を再び偉大に(MAGA)」勢力の影響を抑えることに成功した。来月の英国総選挙で労働党が下馬評通りに政権に返り咲けば、極右勢力の台頭を跳ね返すことになるだろう。ポーランドでも、トランプ氏の影響を受けた8年におよぶポピュリスト政権に、有権者がノーを突きつけたばかりだ。

フランスではマリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合」が欧州議会選で急伸したことを受け、マクロン氏が大胆な賭けに出て、選挙後の演説をテレビで視聴していた解説員を驚かせた。すなわち、解散総選挙だ。国民連合の前身は極端な右派思想を掲げた反移民政党「国民戦線」で、2回投票制のフランス大統領選で勝利を収めたことは一度もない。現在ルペン氏は幅広い層の有権者にアピールしようと、政治的姿勢をやや和らげている。

欧州議会選挙で大敗を喫した中道政党を率いるマクロン氏は、欧州議会選挙よりも投票率の高い国内議会選挙で流れを逆転できると踏んだのかもしれない。総選挙の結果、議会で反極右の連立が成立するだろうと考えたのかもしれない。だが2回投票制の総選挙はパリ・オリンピック(五輪)開幕の数週間前にピークを迎える。そこで国民連合が勝利した場合、マクロン氏は極右勢力の期待の星ジョルダン・バルデラ氏(28)を首相に任命せざるを得なくなる。なんとも厄介な共存関係だ。マクロン氏は密かに、極右政権が混乱をきたせば27年大統領選でルペン氏勝利の望みを打ち砕けるだろうと期待しているのではないか。そんな皮肉も聞かれる。

マクロン氏は今回の賭けについて、「自分にとって、未来の世代にとって、最も正しい選択をするフランス国民の力」を信頼しているからだと有権者に語った。つまり総選挙の発表を「民主主義を信頼」しているからこその行為と位置づけ、経済状況に失望する有権者に母国の基本的価値観を救ってほしいと暗に訴えている。米国の民主主義が甚大な危機に瀕し、有権者の助けが必要だと警告するバイデン氏の演説にかなり近い。バイデン氏は先週ノルマンディー上陸作戦80周年記念式典でマクロン氏と並んで登壇し、そこでも同じメッセージを繰り返した。

そうした理由から、ホワイトハウスは先週末の欧州議会選挙以上に、7月7日のフランス総選挙の行方を注視することになるだろう。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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