パラセル諸島、中越関係の火薬庫か 双方とも「解決」は望まぬ?

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HOANG DINH NAM/AFP/Getty Images

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ベトナム・ダナン(CNN) 「パラセル諸島は」と教師が叫ぶと、30人ほどの生徒たちがさらに大きな声で「ベトナムの領土だ!」と答える。彼らの声は、ベトナム・ダナン市内のパラセル諸島博物館の館内に響き渡る。

同博物館は、ベトナム政府が総工費180万ドル(約1億9000万円)かけて建設し、2018年にオープンした。その目的はただ一つ、パラセル諸島は中国ではなく、ベトナムの領土であることを明確にするためだ。

南シナ海北西に位置するパラセル諸島は、130の小さなサンゴ島とサンゴ礁で構成され、多くの海洋生物が生息している。さらに、同諸島周辺の海底にはエネルギー資源が眠っているとの憶測もある。

米中央情報局(CIA)の年次刊行物「CIAワールドファクトブック」によると、同諸島にこれと言った先住民はおらず、いるのは1400人からなる中国の駐留軍だけだ。

しかし、この諸島がどの国の領土かは定かではなく、領有権を最も強く主張しているのはベトナムと答える専門家もいれば、中国と答える専門家もいる。1つ確かなことは、パラセル諸島は過去45年間、中国が実効支配しているということだ。

博物館にはベトナムの主権を訴える展示が/Brad Lendon/CNN
博物館にはベトナムの主権を訴える展示が/Brad Lendon/CNN

中国政府が次第に南シナ海のほぼ全域の領有権を主張するようになり、さらに南シナ海やその周辺の資源やアクセスに対する最上級の影響力を追求する中国政府に対し、ベトナム政府は辟易(へきえき)しつつある。

歴史に深く根差している紛争

南シナ海の専門家であるトラン・ドゥック・アインサン氏は、パラセル諸島はかつて、現在のベトナムの国土の大半を支配していたグエン朝(阮朝)の統治下にあったと主張する。

アインサン氏によると、17世紀末にグエン朝は漁船隊を派遣してパラセル諸島を占領し、そこで収穫した食用の鳥の巣や魚介類を権力者たちに持ち帰ったという。

漁師らは、この諸島にベトナム語で「ホアンサ諸島」と名付けた。1816年にグエン朝初代皇帝、嘉隆帝(かりゅうてい)がパラセル諸島を正式に併合し、ベトナムの領有権が確立した、とアインサン氏は言う。

しかし、中国外交部は2014年に作成された文書の中で、南シナ海における中国の活動は2000年以上前にさかのぼるとし、中国はパラセル諸島の発見、命名、調査、資源開発を最初に行い、さらに最初に同諸島を継続的に統治したのも中国だとしている。

中国はパラセル諸島を「西沙諸島(せいさしょとう)」と呼んでいる。

中国との衝突を伝える展示/Brad Lendon/CNN
中国との衝突を伝える展示/Brad Lendon/CNN

ロンドン大学の国際研究・外交センター(CISD)の研究者、マーク・ホスキン氏によると、1823年の記録には、パラセル諸島の中国の船や漁師に関する記載があるという。

また、ベトナムは1958年に当時の北ベトナム首相が、ベトナム政府は中国政府による南シナ海とその領域に対する領有権の主張を認め、承認するという内容の書簡を中国政府に送っており、法的に見るとその時点でパラセル諸島の領有権を放棄した可能性がある、とホスキン氏は指摘する。

その一方で、領有権はベトナムにあると主張する人もいる。米国海軍大学の元教授(国際法学)ラウル・ペドロサ氏もその1人だ。

ペドロサ氏によると、非営利調査組織CNAの2014年の分析では、ベトナムは1700年代はじめ以降、パラセル諸島の領有権に対する明確な関心を示しており、20世紀前半のフランス植民地時代、1954年の南北分断、さらに1975年の南北ベトナム統一の間、一貫して領有権への関心を維持していたという。

それに対し、中国は1909年に査察などの目的でパラセル諸島のいくつかの島々に小艦隊を派遣するまで領有権に対する明確な関心は示さなかった、とペドロサ氏は指摘する。

また、中国は1956年にパラセル諸島最大の島、ウッディ島(永興島)を占領し、さらに1974年に当時の南ベトナム軍との交戦後に残りの島々を占拠したが、その時まで、同諸島に中国人は住んでいなかった。しかし、この2つの事例における中国の行動は、他国の領土的一体性を脅かす武力の行使を禁じる国連憲章に違反しており、領有権を主張するための正当な手段ではない、とペドロサ氏は主張する。

2016年4月に撮影されたウッディ島(永興島)/DigitalGlobe/ScapeWare3d/Getty Images
2016年4月に撮影されたウッディ島(永興島)/DigitalGlobe/ScapeWare3d/Getty Images

一方、中国政府は中国の領土を取り戻したにすぎないというのが中国側の主張だ。

1974年にパラセル諸島から最後のベトナム軍を追放して以来、中国は、同諸島に軍の駐屯地を設置し、ウッディ島(永興島)に飛行場や人工港を建設するなど、着実に同諸島の領有権の主張を強めている。

領土問題が消えていない数々の証拠

パラセル諸島博物館の外には、ベトナム漁船90152TS号が展示されている。この漁船は、2014年にパラセル諸島近くで中国の海洋監視船と争っている最中に沈没した。

同博物館の広報担当者は、「90152TS号は、中国の常軌を逸した行動を裏付ける証拠だ」とし、さらにパラセル諸島の領有権を守るというベトナム人の「決意」の象徴でもある、と付け加えた。

博物館の外に展示されているム漁船90152TS号/Brad Lendon/CNN
博物館の外に展示されているム漁船90152TS号/Brad Lendon/CNN

しかし、90152TS号沈没事件に関する中国政府の主張は異なる。

中国国営新華社通信によると、90152TS号がパラセル諸島近くの海域で中国の漁船に迷惑行為を行ったという。新華社は当時、90152TS号は中国の漁船にぶつかった後に転覆したと報じた。

南シナ海では、今年の夏にもベトナム、中国間の紛争が発生した。中国の調査船とその護衛船が、南沙諸島内のベトナムの排他的経済水域に侵入したのだ。

この海域には、かなりの量の天然ガスや石油が存在すると見られており、ベトナムはそれらの資源の開発を目指している。

ベトナム政府の指導者らは不満をあらわにし、ベトナム外務省は7月にベトナム領海からのすべての中国船舶の退去を求めた。

中国のこうした行為に対し、アナリストらは懸念を示している。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のシニアアナリスト、フォン・レ・トゥー氏は、「中国政府は、ベトナムだけでなく、米国をはじめ国際コミュニティー全体を試している」とし、さらに、南シナ海における中国の武力侵略は、各国が「ルールに基づく秩序」をどこまで支持するのかを見るためのテストだ、と指摘した。

とはいえ、中国とベトナムはどちらも戦争は望んでいない、と語るのは、英国王立国際問題研究所のアジア太平洋プログラム担当アソシエイトフェロー、ビル・ヘイトン氏だ。

ダナンで停泊するベトナムの漁船/Brad Lendon/CNN
ダナンで停泊するベトナムの漁船/Brad Lendon/CNN

「(中国とベトナムの)どちらも戦争のリスクを冒してまで領土問題を強引に解決したいとは考えていない。領有権の主張はまさに終わりなき旅だ」とヘイトン氏は言う。

南シナ海の専門家のアインサン氏も同意見だ。

アインサン氏は「中国とは戦争はできない。そんなことをすればベトナム国民に壊滅的な被害が出る」とし、「中国も簡単には折れないだろうが、現時点では国際法廷に訴えるのが唯一の解決策だ」と指摘した。

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