ANALYSIS

タリバーンの復権、中国にとってはチャンスよりもリスク

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アフガニスタン反政府勢力タリバーンの幹部のバラダル師(左)と、中国の王毅外相=7月28日、中国・天津市/Li Ran/Xinhua/AP

アフガニスタン反政府勢力タリバーンの幹部のバラダル師(左)と、中国の王毅外相=7月28日、中国・天津市/Li Ran/Xinhua/AP

香港(CNN) アフガニスタン首都カブールの混乱ぶりを注視する中国。その目にはアフガン情勢がチャンスよりも差し迫ったリスクと映っている可能性が高い。

バイデン米大統領が4月に米軍のアフガン完全撤退を発表して以来、これに乗じて中国が米国の残した空白を埋め、自国のプレゼンスや影響力の拡大を図る可能性がしきりに取り沙汰されてきた。

先月には反政府勢力タリバーンの幹部と王毅(ワンイー)外相が会談し、こうした見方に一段と拍車がかかった。王氏は会談で、タリバーンが「アフガンの平和的和解と再建で重要な役割を果たす」と言明した。

しかし、アフガンの隣国としてこの地域に大規模投資を行う中国にとっては、将来の戦略的利益よりも、タリバーンの突然の復権に伴う安全保障上の課題の方がはるかに差し迫った問題だ。

米ワシントンのシンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団のアンドリュー・スモール研究員は欧州外交関係委員会とのインタビューで、「中国はアフガンをチャンスという視点では捉えない傾向がある。脅威を管理することにほぼ主眼を置いている」と指摘した。

アフガニスタンは細長いワハーン回廊の端で中国西部・新疆と80キロにわたって国境を接しており、中国は長年、アフガンおける米軍のプレゼンスを警戒してきた。だが、実際にはここ20年、中国は米国がもたらす相対的な安定から恩恵も受けてきた。

中国は特に、アフガンがテロリストや、イスラム教徒主体の新疆の独立を目指す過激主義者の拠点になる事態を警戒。王氏もタリバーン幹部との先月の会談で、この点を優先課題として提起した。これに対し、タリバーン側は「いかなる勢力であれアフガンの領土を使って中国に害を及ぼすことは許さない」と応じた。

ただ、安全保障上のリスクは中国国境地帯に限らない。中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて中央アジアに重点投資してきた。タリバーンの政権奪取がイスラム教過激派に波及効果をもたらし、より幅広い地域で中国の経済的・戦略的な利益を脅かす可能性もある。

スモール氏は「中国政府はアフガン国内の権力状況に関して現実路線を取っているものの、タリバーンの掲げる思想的な目標には常に居心地の悪さを感じてきた」と指摘。「中国政府はアフガンにおけるタリバーンの成功が、パキスタン・タリバーン運動(TTP)を含め地域全体で軍事行動を触発する事態を懸念している」と語る。

こうした安全保障上の脅威は先月、パキスタンでの自爆テロで中国人労働者9人が殺害された際に浮き彫りとなった。海外の中国人に対する攻撃としては近年最悪の規模だった。

アフガンの行方に対する中国政府の懸念を反映しているのが、同国外務省の声明だ。中国外務省は、米国が「性急な撤退」で無責任な行動を取ったと繰り返し批判してきた。

一方で中国政府は、米撤退後の力の空白を埋める目的でアフガンに派兵する意図はないとのシグナルも発している。一部のアナリストは派兵の可能性を指摘するが、中国紙の環球時報は15日、こうした臆測には「全く根拠がない」とする専門家の見方を引用した。

中国国営メディアはアフガンの状況を米国にとって「大きな屈辱」だと報じ、これを引き合いに、他国の内政への「不干渉」を掲げる中国の政策の優位性を主張。内政不干渉は中国の周恩来元首相が1950年代に定めた外交政策原則の一部と重なる。

環球時報は15日夜に公開した社説で、「アフガン情勢の激変は間違いなく米国にとって大きな打撃だ。アフガン再編を狙う米国の意図が完全な失敗に終わったこと明らかになった」とし、「今回の敗北はベトナム戦争よりも明白に米国の無力さを示す。米国はまさに『張り子の虎だ』」と断じた。

中国はアフガンの安全保障状況に巻き込まれるコストを強く意識している。国営メディアでは最近、アフガンを「帝国の墓場」と評する分析が相次いだ。

中国は米国を踏襲するのではなく、現実的なアフガン政策を採用する可能性が高い。タリバーンの代表団による先月の訪中を公表することで、中国政府は自国の国益に資する限りにおいてタリバーン政府を承認し、相手にするとのメッセージを送っているのだ。

中国外務省は16日、タリバーンがアフガン情勢の「円滑な移行」を確実にし、「あらゆる種類のテロリストや犯罪行為の抑止」するという約束を履行できることを望むと表明した。

華春瑩報道官は記者会見で、「アフガン情勢は大きく変化した。我々はアフガン国民の意思と選択を尊重する」としている。

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