OPINION

プーチン氏の対ウクライナ戦争を巡る7つの重大な疑問

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ウクライナ東部の集落に配備された同国軍の兵士/Aris Messinis/AFP/Getty Images

ウクライナ東部の集落に配備された同国軍の兵士/Aris Messinis/AFP/Getty Images

(CNN) ロシアのプーチン大統領によるウクライナへの襲撃は、第2次世界大戦後の欧州史における劇的な分岐点だ。そこからは軍事行動の端緒やタイミング、今後起こりそうな展開についての極めて重要な疑問が浮かび上がる。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領による2003年のイラク攻撃、あるいはイラクの独裁者、サダム・フセイン元大統領による1990年のクウェート侵攻以来、今回プーチン氏が踏み切った攻撃ほど無謀な様相を呈したものは見られない。

ピーター・バーゲン氏
ピーター・バーゲン氏

侵攻から生じる疑問は以下の7点だ。

まず、なぜプーチン氏はウクライナ攻撃をバイデン米政権の期間中に選択したのか? ドナルド・トランプ氏が大統領だった時期ではなかったのか?

結局のところトランプ氏は、プーチン氏による「ロシアを再び偉大にする」計画の熱心な協力者だったようだ。わざわざプーチン氏にすり寄り、北大西洋条約機構(NATO)の同盟の意義も低下させた。NATOの弱体化は、かねてプーチン氏が目標としていたところだ。

おそらくはトランプ氏がプーチン氏と個人的に親しい間柄だったことから、当時の政権はロシアに対し幾分厳しい姿勢を取っていた。2018年、トランプ政権は約4000万ドル相当の殺傷兵器をウクライナ政府に売却することを承認。同政府はウクライナ東部でロシアの支援する反政府勢力と戦闘を繰り広げていた。さらに同年、トランプ政権はロシアの外交官60人を米国から追放した。ロシアに対し、英国に住むロシア人の元スパイを神経剤で暗殺しようとした疑惑が生じたことを受けての措置だった。

ここまでの内容から2点目の疑問が導き出される。バイデン政権による昨年8月のアフガニスタン撤収は、ウクライナをめぐるプーチン氏の意思決定にどの程度の示唆を与えたか?

間違いなく、アフガニスタンを見捨てるというバイデン大統領の決断には、米国側の撤退の意向が表れていた。それは選挙で選ばれたアフガニスタン政府内の協力者らをイスラム主義勢力タリバンからの過酷な扱いにさらす一方、米国のNATO同盟国もいら立たせた。これらの国々は米国による撤退の結果、同じくアフガニスタンからの撤収を余儀なくされた。なぜなら、米軍が供給する多大な空軍力や諜報(ちょうほう)のおかげで、各国の軍隊はアフガニスタンでの活動が可能になっていたからだ。

中国の国営メディアは、米軍によるアフガニスタンの放棄から台湾の命運に関する教訓が得られると指摘した。つまり米国は同盟国にとって、いざという時当てにならない友人であり、張子の虎だというわけだ。「カブール陥落で際立ったのは、米国の国際的なイメージと信頼の失墜である」。中国国営新華社通信は、そのような見解を示した。

昨年11月初め、米国によるアフガンからの完全撤退が大失敗に終わってからわずか2カ月余りのタイミングで、プーチン氏は大規模なロシア軍の移動を開始。ウクライナ国防省によると、9万人の兵士を同国との国境に向かわせた。

ロシアもNATOも実際のところウクライナのNATO加盟を望んでいないのは周知の事実だ。その理由はまさしく我々が今、ウクライナで目にしている状況に表れている。もしウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの侵攻によって北大西洋条約の第5条が発動する。そうなると今度は逆に、NATO主導の対ロシア戦争が引き起こされる。核を巡る対立に発展する可能性も出てくる。

NATO諸国にはウクライナでの戦争に兵士を送る意欲など毛頭なく、バイデン大統領も米軍の現地派遣は一切行わないと述べている。ただ同氏は一方で、仮に戦争が拡大し、ロシアが東欧のNATO加盟国を攻撃する事態になれば米軍が介入するとも明言した。ではなぜ今、戦争なのか? ひょっとするとプーチン氏は、今のうちなら侵攻しても罰を受けずに済むと感じているだけなのかもしれない。

しかし、プーチン氏が見かけの上で行った米国とNATOの弱体化に関する計算は、やや裏目に出た格好だ。バイデン政権はNATO提携国と緊密に連携しており、同盟自体も結束を維持。ロシアの侵攻に対する共同戦線を張っている。

一方、米国の情報機関は期待通りの活躍を見せた。同国の政策立案者に戦略的な警告を発し、プーチン氏がいつウクライナに侵攻してもおかしくないと正確に予測(侵攻を正当化する「偽旗作戦」を実施する公算が大きいとしていた)。また侵攻の目的が選挙で選ばれた現ウクライナ政権の転覆にあるとの見方も示した。バイデン政権によるこうした情報の公表も、効果を発揮している。

そこで別の疑問だ。プーチン氏が早い段階で軍事的勝利を収めた場合、それは03年の米国によるイラクでの「勝利」の再現になるのか? その後のイラクは手に負えない反乱が長期化、内戦状態に陥った。

その可能性は確かにある。マキャベリが500年前に指摘したように、「戦争は意図すれば始められるが、希望通りに終わるものではない」。

(プーチン氏が勝利した場合、)米中央情報局(CIA)はウクライナの反体制派への資金提供を開始するか? 13年にはシリアのアサド政権と戦う反体制派にそのような資金提供が行われた。

そのCIAによる取り組みは失敗し、アサド政権は事実上、ロシアが15年にシリア戦争に介入したことで救われた。果たしてCIAの努力はウクライナで実を結ぶだろうか?

米国によるプーチン氏の側近とロシア経済に対する厳しい制裁措置は、同氏にウクライナ政策を再考させるだけの効力を持つのか?

それは疑わしい。独裁主義の体制というものは概して、過酷な制裁であっても自らの国民を犠牲にすることでそれらを跳ねのけてしまう。現在の北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記や、1990年代のフセイン政権時代のイラクを見ればわかる。懲罰的な米国の制裁により北朝鮮とイラクの国民は貧困化が進んだが、それぞれの体制に十分な影響が及ぶことはなかった。

ウクライナ東部の分離派が支配する2地域についてプーチン氏が独立を承認した際、トランプ氏はこれを「天才的」な措置と評していたが、同氏はこの発言で多少なりとも政治的な代償を払うのだろうか?

トランプ氏による数多くの行動と同様、前代未聞の発言だ。前大統領が、現職の大統領の敵国に対する外交政策について、公然とその価値を貶めることなどかつてなかった。プーチン氏を「抜け目がない」「天才的」と評したトランプ氏のコメントは今月22日に発したもので、その後プーチン氏は軍をウクライナに侵攻させた。

トランプ氏に先導される形で、共和党の一派はプーチン氏の応援団と化した。プーチン氏を擁護する主要なリーダーの1人が、FOXニュースの司会者、タッカー・カールソン氏だ。同氏は先月、「なぜロシア側につくと道義に反し、ウクライナ側につくと道義的という話になるのか?」と疑問を呈していた。

カールソン氏は22日、自身の番組内で、プーチン氏擁護の姿勢をさらに強く打ち出し、大げさにこう問いかけた。当該のロシアの独裁者がこれまで「人種差別」を推奨したり、「キリスト教を弾圧」しようとしたことがあったか、合成麻薬フェンタニルを製造したり、犬を食べたりしたことがあったか、と。

カールソン氏は、プーチン氏とその取り巻きが過去に政敵を殺害したかどうか、風変わりな武器でそうした人々に毒を盛ったことがあるかどうか尋ねるのを忘れた。罪をでっち上げて彼らを投獄し、近隣諸国に侵攻し、ロシア国民への略奪を働いたことがあるかどうかは問わなかった。

最後に、長い目で見れば戦争の勝者は誰になるのか?

当然ながら、それは誰にも分からない。79年12月、当時のソ連は隣国アフガニスタンを楽々と侵攻したかに見えた。ところが、首都カブールをあっという間に制圧したにもかかわらず、10年後には同国から撤退。これにより、ソ連崩壊の時期は早まった。逆にプーチン氏は、ウクライナから2014年に併合したクリミア半島を現在に至るまで手放していない。戦争は常に、最も先が読めない事業だ。

プーチン氏は過去22年にわたりロシアを事実上支配してきた。20年には憲法改正をめぐる国民投票を経て、36年まで大統領の地位にとどまることが可能になった。

自然の原因による介入がなければ(ほぼ完全に外界から隔絶された本人の状況から判断して、プーチン氏は自身の健康を大いに気にかけている)、プーチン氏がロシアの支配者として居座り続ける期間はスターリンの30年、あるいはエカチェリーナ2世の34年を超えるかもしれない(もちろんプーチン氏が未知の力によって打倒される可能性は常にある。しかし権力を完全に掌握している現状を考慮すると、それはきわめてわずかなものに思える)。従ってプーチン氏には、この先も自らの構想の実現を図る時間が多く残されている公算が大きい。その構想とは、ソビエト帝国を復興し、「ロシアを再び偉大にする」ということに他ならない。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授も務める。最近、国際テロ組織アルカイダの最高指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者の伝記を上梓(じょうし)した。記事の内容は同氏個人の見解です。

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