CNNへの声明の中でアゾフ連隊は、「アンドリー・ビレツキー氏には称賛と敬意を抱いているが、それは隊の創設者と初代の司令官としてであって、同氏の政治的活動や国家軍団党とは何の関係もない」と説明。上記のようなコメントを同氏が発したことは一度もなかったと付け加えた。
また自分たちの意欲が「常にロシアを怒らせてきた。それゆえにアゾフ大隊に対する偽情報による攻撃は2014年以降やんだことがない」と指摘した。
さらに「ファシズムやナチズム、レイシズムに関する疑惑を繰り返し否定してきた」とも強調。隊には様々な異なるルーツを持つウクライナ人がおり、ギリシャ系、ユダヤ系、クリミア・タタール系、ロシア系などの人々が隊での任務を継続しているという。
「彼らのほとんどはロシア語を話す正教徒だ。だがカトリックやプロテスタント、異教徒やイスラム教、ユダヤ教を信仰する人々もいれば、無神論者もいる」
アゾフ大隊の役割については、「国家親衛隊の特別部隊であり、最高司令官であるウクライナ大統領のみに従属する。大統領はユダヤ人だ」と述べた。
「我々が白人のレイシズムやナチズムといった思想で結びついていると考えるのはばかげている」と、声明は付け加えた。
国家主義の活動家らが発煙筒を焚き、反ロシアのスローガンを叫ぶ。キエフにあるゼレンスキー大統領のオフィスの前で=2020年10月14日/Sergei Supinsky/AFP/Getty Images
国際的に悪名高いアゾフ運動だが、ウクライナは「ナチス共鳴者の肥だめではない」。そう語るのはドイツ首都ベルリンに拠点を置く過激派対策プロジェクト(CEP)のアレクサンダー・リッツマン上級顧問だ。
同氏によると、ウクライナで19年に行われた前回選挙では、アゾフの政治団体の得票率は2.15%にとどまり、ビレツキー氏は議会の議席を失った。
また極右勢力はロシアでも目立ち、「紛争のどちらの側にも極右の問題は存在するが、ウクライナの極右問題のみが報じられる点に偏りがある」という。
アゾフの起源
アゾフ大隊が結成されたのは14年。ロシアを後ろ盾とする反政府勢力がウクライナ東部ドンバスの各地で領土奪取を始め、ロシアがクリミア半島を侵攻・制圧した時のことだ。当時、ウクライナ国防省は義勇兵部隊に対し、抵抗運動に参加して苦戦する国軍を助けるよう促していた。
14年6月のマリウポリ奪還に貢献したことで、アゾフ大隊はウクライナで「英雄の地位」を得たと、リッツマン氏は指摘する。
だがそうした地位に伴い、厄介な荷物もできた。一部の隊員の極右思想やネオナチの記章だ。その中には「ナチスが疑似宗教に利用した異教的シンボル」である黒い太陽や、「極右過激主義者も採用するシンボル」であるヴォルフス・アンゲル(狼の罠)も含まれるという。
アゾフ指導部はネオナチとの結びつきを否定し、ヴォルフス・アンゲルの「N」と「I」は「国家理念」を意味するとしている。
アゾフ大隊は極右組織「ウクライナの愛国者」を以前率いていたビレツキー氏らが創設したものだが、国家から武器を与えられ、ウクライナ東部のオリガルヒ(新興財閥)から資金提供を受ける。その中にはユダヤ人実業家のイホル・コロモイスキー氏の資金も含まれると、リッツマン氏は話す。米国務省は21年3月にコロモイスキー氏に制裁を科し、その前年には司法省が横領や詐欺の疑いで同氏を捜査対象にした。
CNNはコロモイスキー氏の弁護士にコメントを求めている。
16年には、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)がアゾフを含むドンバス紛争の双方の武装集団を人権侵害で非難した。
国際的な活動
アゾフ大隊が14年に連隊として内務省の指揮下に入ったとき、「ビレツキー氏のように政治的動機を持つ戦闘員は離脱し、ウクライナ軍内では許されない超国家主義的、極右的な仕事をするためにアゾフ運動を立ち上げた」(リッツマン氏)
ビレツキー氏が結成した政党「国民軍団」は18年に米国務省から国家主義的なヘイト(憎悪)集団と名指しされたが、オスロ大学過激派研究センター(C―REX)のカツペル・レカウェク研究員によると、本質的にはこれが「今日われわれがアゾフ運動と呼ぶ組織の中核になっている」という。
「アゾフ運動は国境を越えて活動する極右の重要な存在だ。欧州連合(EU)加盟国の多くや米国の極右集団と強固な結びつきを持ち、ここ数年、ネットワークの結節点の役割を果たしている」(リッツマン氏)
国民軍団の国際部門トップを務めるオレナ・セメニャカ氏は18年、ドイツのネオナチが主催するフェスティバルに参加した。19年には、スウェーデンの極右集会で英国のネオナチの人物と一緒に講演したこともある。
14年の結成以来、アゾフ運動は民兵や子ども向けのサマーキャンプ、準軍事的な訓練拠点を含む組織に成長。国際的な極右の場として自らを宣伝しつつ、音楽祭や政治イベント、総合格闘技大会などの活動を手掛けている。
国民軍団は繰り返し、マイノリティーの扱いでリベラルな価値観を蔑視する姿勢を示してきた。
米国務省の18年の報告書では、キエフにあるロマ人キャンプの住民が24時間以内の退去に応じなかったことを受け、アゾフの民兵が地元警察の目の前でキャンプを襲撃・破壊したと指摘されている。