地理の教師を標的に
ウイグルの学者でノルウェーに逃れているアブドゥウェリ・アユプさんの場合、警察のファイルを検索しても安堵感は一切ない。あるのは苦悩のみだ。
本当のところ、見なければよかったとさえ思う。
カシュガルで語学学校を経営していたアユプさんは、15年8月に新彊を脱出した。それ以前には政治犯として収監されていた時期もある。CNNの取材に対し、その間拷問や集団レイプの被害に遭ったと明かしていた。
兄弟と妹が自分のために標的になっていることは既に聞いていたが、今回のデータベースの検索によって初めて、それが公式に確定した。
アユプさんは「政府の文書に、自分と関係のあることだと告げられた。自分のせいなのだと」と語り、今は「罪の意識と責任」を感じていると言い添えた。
高校で15年間地理を教えていた妹は、警察のファイルの中で「ブラックリスト入り」に分類された1万5563人の1人だった。
アユプさんは「妹が逮捕されたことは聞いていた。公務員として不誠実だと非難されたからだ。ブラックリストに入ったのは私のせいだ」と述べた。
アユプさんによると、ウイグルの人々が新彊で公的な仕事に就く場合、自分たちの文化的な信条を実践し続けていると「不誠実」と糾弾されることがよくある。「政府に100%の忠節を尽くさない裏切り者」と、レッテルを貼られるのだという。
「おびえながら暮らすだろう」
新たな検索ツールを初めて使用した時、豪アデレードに住むウイグルのマルハバ・ヤクブ・サライさんは、思いがけず2人の親類に関する警察記録を見つけた。2人は姪(めい)と甥(おい)で、ファイルが作成された17年の時点ではそれぞれまだ15歳と12歳だった。
甥はブラックリストの「カテゴリー2」に区分され、「治安とテロ行為に関する事件」での「共犯の疑いが濃厚」と記載されていた。
ファイルは姪と甥について、シリアやアフガニスタンなど「疑惑を起こさせる」26カ国のうち少なくとも1カ国に旅行したことを示唆していた。サライさんによればそれは事実ではない。中国国外で2人が渡航した経験があるのは、休暇で出かけたマレーシアだけだ。
「こんなことは馬鹿げている。ひどい」。甥のファイルを読み進めながら、サライさんはそう口にした。「後2~3カ月で彼は18歳になる。彼らはあの子を逮捕するつもりだろうか?」
2人の母親でサライさんの姉妹にあたるマイラ・ヤクフさんは、数年を収容所で過ごした後、20年の終わりに禁錮6年半の判決を言い渡された。
ヤクフさんは13年、サライさんと両親がオーストラリアで家を購入できるように送金した後でテロ行為に資金援助した疑いをかけられていた。
サライさんとヤクフさんには1998年に新疆を後にし、2007年にオーストラリアで事故死した兄弟がいる。警察はこの兄弟との血縁関係を理由に甥を疑っていると、サライさんはみている。兄弟と甥が会ったことは一度もないという。
「心の痛みを感じる。いつ姪と甥が捕まるかと、おびえながら暮らすことになるだろう」(サライさん)
「心のウイルスのように」
「関係性による罪」が子どもたちにまで及ぶ実態は、中国という国家がウイグル人口に対して抱く被害妄想を反映していると、ゼンツ氏は指摘する。
「国家は、家族全体が汚染されていると考える」「これは習近平氏をはじめとする当局者らが内々で話す内容と一致すると思う。彼らはイスラム教を人々に感染する心のウイルスのように形容している」
今回の新たなデータ流出を受け、研究者らは新疆内部での政策に関する証拠が一段と拡大するのを期待する。またファイルへの広範なアクセスを提供することで、各国政府や人権団体には改めて中国に責任を課すよう取り組んでほしいと願う。
「これがウイグルの人々の間にいくらかの希望を呼び起こすことを切に願う」(ゼンツ氏)
必死の思いで再会を果たそうとする世界中のウイグルの家族にとっては、ファイルに記された83万の名前の一つひとつが愛する人の象徴に他ならない。
米国で暮らすジュマさんは、「美しい魂が、これらの数字の裏で破壊されている」「全くいわれのない苦しみがそこにある」と語った。