OPINION

G7サミット、かつて核により荒廃した地での開催は偶然に非ず

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G7サミット開催を控える広島市の広島平和記念公園から見える原爆ドーム/Michael Kappeler/picture alliance via Getty Images

G7サミット開催を控える広島市の広島平和記念公園から見える原爆ドーム/Michael Kappeler/picture alliance via Getty Images

(CNN) 岸田文雄首相が広島市を今年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地に選んだのは偶然ではない。自ら広島を選んだことを明らかにした直後、岸田氏は「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」と指摘した。

G7サミットでは気候変動や新型コロナのパンデミック(世界的大流行)から学んだ教訓、経済安全保障など、多くの問題が話し合われる見通しだが、岸田氏は開催地を通じ、広島の持つ歴史的意義に改めて思いをはせ、核軍縮に向けた日本の決意を再確認する機会にしたいと考えている。

ポール・スレイシック氏
ポール・スレイシック氏

第2次世界大戦以降、広島は核の使用が破滅的な結果をもたらすことを示す強力なシンボルとしての役割を果たしてきた。1945年8月6日、日本が連合国への降伏を受け入れるのを期待しつつ、米国は1発の原子爆弾を広島に投下した。原爆による日本人の死者数を検証するのは難しいが、低く見積もっても数万人に達するとみられる。当然ながら、78年を経てもなお、核戦争の恐怖が日本人の頭から離れることはない。

東京生まれながら、岸田氏はこうした歴史を非常によく理解している。それは今日の脅威でもある。同氏の出自は広島の政治家の家系。自身も同県1区選出の国会議員だ。1945年にはまだ生まれていないが、親類の1人を原爆投下による負傷が原因で亡くしている。また祖母が原爆投下後の破壊の様子を話すのを聞いたことがあるとし、その経験が自身の政治活動の原動力になっているとも明かしていた。

核の脅威について、岸田氏はかねて文章や言葉を通じて発信してきた。外相を務めていた2014年にはフォーリン・アフェアーズ誌への寄稿の中で、核に関する具体的な施策を詳述。世界における核軍縮と核不拡散を促進する上で実行し得る取り組みを説いた。そこで岸田氏は、核軍縮の交渉に向けて多国間の意思疎通の経路を強化することを推奨したほか、各国に対し、現在の核兵器の保有数を透明化することなどを求めた。

この記事の中で岸田氏が指摘した内容の多くは、「ヒロシマ・アクション・プラン」に含まれている。同氏はこのプランを昨年、核兵器不拡散条約(NPT)締約国による再検討会議での演説で提案した。ヒロシマ・アクション・プランは日本に対しても、核兵器使用の現実に対する適切な理解を促進するよう義務付ける。具体的には、被爆地である広島と長崎への各国指導者らの訪問を促すことに言及している。

ただ、核軍縮に向けた岸田氏の取り組みにもかかわらず、今回のG7サミット開催時点で世界の大半は平和な状態にないのが実情だ。

ロシアはウクライナでの核使用を巡る威嚇を行い、3月には核兵器をベラルーシに配備する計画を発表した。ベラルーシはウクライナと国境を接するのみならず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるラトビア、リトアニア、ポーランドにとっても隣国だ。ロシアによるこの発表は、核戦争が今なお確実に存在する脅威なのだということを世界に思い起こさせた。

米国政府によると、ロシアは自国の核兵器備蓄を最新化しており、複数の新型兵器をウクライナに送り込んでいる。そこには既存のミサイル防衛システムを回避できる極超音速ミサイルも含まれる。この状況を受け、世界の指導者の間では新たな核兵器競争と破滅的な衝突についての懸念が浮上している。

ロシアによるウクライナに対する戦争は、G7サミットの中心を占めるだろう。ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインもしくは対面で姿を見せる可能性もある。広島での会合を1つの機会とし、G7首脳らが協力してロシアへの経済制裁を強化、拡大することが見込まれる。

ウクライナが予想される新たな攻勢を準備する中、この点はとりわけ重要になる。望ましいのは、制裁拡大が攻勢に対抗するためにロシア軍が必要とする供給を阻止するだけでなく、戦争を支持するロシアの国内世論も首尾よく減退することだ。

四方敬之内閣広報官はサミットの目標の一つとして、G7各国が法の支配に基づく国際秩序を支持し、力による現状変更を意図した一方的な取り組みや核兵器使用の威嚇についてはいかなるものであってもこれを断固として拒絶することを挙げた。これは明らかにウクライナでのロシアの行動を念頭に置いた見解だが、同時に台湾海峡で将来起こり得る対立にも当てはめることができるかもしれない。そこには核武装した中国が絡んでくる。

G7サミットではこの他にも、核に関連した問題を話し合う公算が大きい。例えば北朝鮮がもたらす具体的な脅威だ。日本の近隣に位置する北朝鮮は核開発プログラムを進め、現在もミサイルの発射実験を実施する。核実験こそ5年以上行っていないが、ミサイル実験は継続している。

核兵器の北朝鮮への拡散に加え、イランでも核開発プログラムが進展する。ロシアによるウクライナでの核使用の懸念と合わせて想起されるのは、核戦争のリスクの低減に向け、国際社会の協力が喫緊に求められているという現状だ。

残念なことに、どちらかと言えば世界はそうした兵器による脅威が拡大する方向へ動いているようにも見える。おそらく我々が期待し得る最上の成果とは、G7首脳らが原爆ドームの廃墟のそばを歩く中で、1つの会話が始まることだろう。そこで我々は、どうすれば今の流れを逆転できるのかを話し合う。手遅れになる前に。

ポール・スレイシック氏は米ハドソン研究所の非常勤フェローで、ヤングスタウン州立大学の教授を務める。専攻は政治学と国際関係学。国際交換プログラムを通じ、早稲田大学などで教鞭をとった経歴も持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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