ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は、今回の事件が何だったのか、今どこへ向かっているのか、ウクライナの反転攻勢に物質的な利点をもたらすかどうかを大至急精査することになるだろう。だが事を急いで仕損じるようなことがあってはならない。
ロシアの弱点を突くためにウクライナ軍を突如大量に動員することについては、当然ながらウクライナ政府は数週間じっと契機を待ちかまえ、真価を検討しているだろう。
ロシアが失敗を重ねる中、慌ててミスを犯すようなことはウクライナ上層部もしたくはない。数百人、数千人規模で兵士の再配備を行うには時間がかかるし、攻撃に備えて地ならしするにはさらに時間がかかるだろう。
だが週末の出来事は、戦争でのロシアの勝機に払拭(ふっしょく)できない傷痕を残した。三つの角度から、これがウクライナに吉と出る可能性がある。
第一に、ロシア軍の士気に膨大な影響が及んだのは間違いない。
自分たちの位置情報や機密情報がウクライナのスパイに漏れないよう、前線の部隊はしばしばスマートフォンの使用を禁じられている。だが反乱未遂の知らせはじわじわと広まっていくだろう。ロシアでもっとも著名な軍人であり、おそらくはロシア高官の戦争手腕や軍需品不足を公然と非難できる唯一の人物が、問題解決のために武器を取ったことは衝撃的だろう。
二つ目は、最高指揮官の弱さが明るみになった点だ。
反乱が始まると、プーチン大統領は口をつぐんだ。その後ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏を「テロリストと同じやり方」をする「下郎」だとし、「処罰を逃れることはない」と宣言した。すると今度は大統領報道官が、ベラルーシに逃れれば全面的に罪を免れる取引をプリゴジン氏と交わしたと発表した。