香港(CNN) 米国の外交トップによる訪中が今週終了した。米中政府はほころびた両国関係の修復に向けた重要な一歩だと期待を示した。
だが肯定的なメッセージの裏で、ブリンケン国務長官の2日間にわたる訪中はもうひとつの現実を浮き彫りにした。二つの超大国の間には、大きく危険な溝が広がっているという現実だ。
米中の競争関係の是非や、米中関係の相互尊重の有無、紛争に発展する可能性を軽減するための方策など、根本的かつ喫緊の課題について双方の意見は大きく食い違ったままだ。
かたや国際的な影響力の拡大を望む権威主義国、かたや世界的な影響力を持つ民主主義国。両国が妥協点を見出すのは決して容易ではなかった。
中国の偵察気球をめぐる論争で数カ月延期されていたブリンケン長官の訪中がようやく実現し、最終的に19日の習近平(シーチンピン)国家主席との会談に至ったことは、米中関係の安定化に資する一歩と広く受け止められた。
この数週間、中国軍と米軍がアジアで2度も異常接近した中での訪中というタイミングも、会談の緊急性を物語っている。
だが米代表団と中国政府幹部の約11時間にわたる協議では、双方が支持を表明した対話でさえも、関係改善をますます困難にする重大な分裂が垣間見えた。
見解の食い違い
少なくとも政府関係者の間で、米中が相いれない最も厳しい分野のひとつは、習氏から指摘された。
ブリンケン長官を含む両国代表団が向かい合う中、テーブルの一番奥に腰を据えた習氏は、「大国間の競争は時代の流れにそぐわない」との見解を示した。
「中国は米国の国益を尊重しており、米国に挑戦したり、取って代わろうとしたりしていない。米国も同じように中国を尊重する必要があり、中国の正当な権利と利益を損なうべきではない」(習氏)
米中は競争関係にないという見解は米国の見方とは明らかに対照的で、まさに中国の外交政策を物語っている。
米政府は、中国と競争の段階に突入したと明言してきた。ブリンケン長官も昨年の施政方針演説で、中国政府は「国際秩序に対する最も深刻な長期的脅威だ」というバイデン政権の見解を示している。
それゆえ米国は、中国が影響力を拡大して世界秩序の解体を試みているとみなし、人権や民主主義といった普遍的な価値観で対抗している。
米国はここ数カ月、中国企業に制裁を科し、同盟国に半導体の対中輸出を制限するよう圧力をかけ、「経済的威圧」への対抗とサプライチェーン(供給網)の「デリスキング(リスクの低減)」を先進国に呼びかけた他、台湾とも新たな協定を結んだ。民主主義の下で自治を行う台湾は中国に支配されたことがないにもかかわらず、中国共産党は台湾に対する主権を主張している。
一方の中国政府は、大国が複数存在して人権侵害や圧政、経済成長などに関し互いに内政干渉をすることのない世界を呼びかけている。米国が自国の利益のために、中国の成長を抑圧し、国内事情に干渉しているというのが中国側の意見だ。
「米中関係が戦略的な競争関係にあると認めれば、中国国内の優先事項や資源を再検証しなくてはならない可能性もある」。米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル・ファンド」で米国のインド太平洋政策を専門とするマネジングディレクター、ボニー・グレイサー氏はこう語る。
これはいくつか重大な点を示唆している。
「中国は、競争が紛争に発展しないようガードレールを設けようという米国の提案に協力的ではない」とグレイサー氏は言い、その例として、中国政府は「そう簡単には米国に周辺地域での監視偵察活動をさせまいとしている。海や空で意図的に危険をあおっている」と付け加えた。
軍の連絡
米中間ではこの数カ月、台湾海峡で軍艦があわや衝突という出来事や、南シナ海上空での中国軍機と米軍偵察機の異常接近など、危険な軍事的接触がたびたび発生していた。
米国のペロシ前下院議長が昨年台湾を訪問して以降、中国は米軍幹部との対話を中断した。高官レベルでの連絡が途絶えたことで、不運な事故が紛争に発展するのではとの懸念が高まっている。
今回の訪中でブリンケン長官は、両軍の高官レベルの連絡ルートの再開について、中国側から同意を得ることはできなかった。ここにもまた深く根を下ろした障壁がある。
中国外務省の楊濤・北米大洋州局長は19日夜、記者団に対し、米国の「一方的な制裁」を指摘したが、その理由は米国政府も十分理解している。
楊氏は「米国はまず障壁を取り除くべきだ」と述べた。
中国によるロシア製兵器の購入をめぐり、中国国防相の李尚福氏は2018年から米国の制裁の対象になっている。
上海を拠点に活動する中国外交の専門家、沈丁立(シェン・ディンリー)氏は、中国にとってはこれもすべて尊重につながっていると語る。
「国防相が制裁を科されている中、中国が米国の上から目線の物言いを受け入れることはありえない。米国を見上げることはしたくなく、少なくとも同じ目線の高さで臨むべきだ」(沈氏)
遅々とした歩み
中国はブリンケン長官の訪中以前から米中問題の責任が誰にあるのか明言しており、今回の訪中でも繰り返した。
中国外交トップの王毅(ワンイー)氏は19日午前の会合で、米代表団に「中国に対する米国側の誤った認識が根源だ」と語った。
米台関係や競争関係にあるという米国の見解など、米中対立の核となる問題での前進は見られなかったようだ。
双方とも気候変動や麻薬密輸といった国際問題には協調して取り組んでいくとの姿勢を示し、「開かれた通信ラインを維持する」ことで同意したと米国政府は明らかにした。
中国政府が会談後に挙げた協力分野は、昨年11月バリでの主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて行われたバイデン大統領と習氏との友好的で多岐にわたる首脳会談後と比べると、規模が縮小しているようにも見える。
「米中関係が不安定な状態に差しかかっているのは明らかだ」。ブリンケン長官は19日、北京で行われた記者会見でこう発言した。「双方とも、関係安定化の必要性を認識した」
今年11月には米国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、習氏が訪米する可能性もある。今回の訪中も含め、今後数カ月で短期的な緊張緩和につながるかもしれない。
だがこれによって、米中関係の安定化がこの先どこまで進展するかは分からない。
「醜い小競り合いが直接対決に発展するのを回避するためにも、対話は最初の一歩として重要だ」。ワシントンを拠点とする米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」で非常勤シニアフェローを務めるデクスター・ロバーツ氏はこう語る。
ロバーツ氏は「もちろん、高官による協議は、様々な根強い意見の相違を解決することと同じではない。それぞれの国の幹部が相手に抱いている根深い猜疑(さいぎ)心も払拭(ふっしょく)されない」と指摘した。
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本稿はCNNのシモーヌ・マッカーシー記者とネクター・ガン記者の分析記事です。