不確実性と混乱
軍事ブロガー界隈(かいわい)からの発言はより直接的だ。彼らはかねて、軍の権力層が仕返しに血道をあげているとして懸念を表明してきた。
最も有力な軍事ブロガーの一人のライバー氏は、ポポフ氏の運命にこそプリゴジン氏の武装反乱以降始まった「魔女狩り」の実態が表れているとの見方を示す。
非公式の情報発信メディア「VChK-OGPU」も12日、国防省内部の「戦争」が依然として継続しているとし、ポポフ氏の解任を要求したのはゲラシモフ参謀総長だったと主張した。
VChK-OGPUによれば、ポポフ氏がプーチン氏に直接抗議する姿勢を見せたため、「ゲラシモフ氏がその任を解き、前線に送った」という。
ポポフ氏が現在どこにいるのかは不明。
不確実性と混乱が渦巻く中で、国防省は完全な沈黙を守っている。ツォコフ氏の死亡やポポフ氏の解任、スロビキン氏の現在の居場所に関するコメントは一切出てこない。
一方で、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長は、高度に演出された形で公の場に登場している。前者は武装反乱直後にウクライナ国内を視察(映像の正確な撮影時期は疑問の余地がある)、後者はスロビキン氏の副官と電話会議を行う様子が確認されている。
ランド研究所に所属するロシア軍の専門家、ダラ・マッシコット氏は、スロビキン氏の所在への臆測が続く中で同氏の率いる航空宇宙軍の最新状況にあえてスポットライトを当てる行為は恐らく意図があると指摘する。
さらに10日にはツイッターで、ショイグ氏による前触れなしでの訓練施設の訪問に言及し、「万事順調」で自分が適任者だとアピールする取り組みがなおも続いているとの見方を示唆した。
ブロガーのライダー氏も同様の見方を示す。「ロシア国防省の指導部が主に明るい報告に依拠している事実は否定しがい状況にある。そうした状況は否定的な報告を阻害する」と指摘する。
さらに「ポポフ氏とゲラシモフ氏の対立で浮き彫りになったように、ロシア軍には結束が欠如している。敵は間違いなくその点を利用するだろう。そして当然ながらロシアはそこから痛手を被る。これこそが最も悲しいことだ」ともつづった。
西側の専門家らは、狭量な対立の文化が国防省をはじめとするロシア軍の多数の組織に浸透していると指摘。慢性的な腐敗も一因となっているこうした風土は、ウクライナでの戦況が差し迫った中でも変わっていない。
いかなる軍事作戦でも後退を余儀なくされ、混乱に陥ることはある。しかしロシアによるウクライナ侵攻では、機敏な統率や一貫した指導力が発揮された事例がほとんど確認できないのが実情だ。
有能な司令官たちの喪失は、ロシアの「特別軍事作戦」が週を追うごとに特別なものでなくなりつつあるということを改めて示している。
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本稿はCNNのティム・リスター、アンナ・チェルノワ両記者による分析記事です。