ワグネルは「存在せず」、プーチン氏が傭兵集団の亀裂を主張する理由
しかし仮に、ワグネルが専門的な解釈上違法な組織であり続けていたなら、一体誰が彼らの使用を認めたのか? 彼らを訓練し、装備を施したのは誰なのか? 彼らに対する予算を誰が承認したのか?
そうした疑問は、専門的もしくは哲学的な解釈以上のものだ。結局のところプーチン氏自身が6月27日の発言で治安当局者に対して認めているように、「ワグネル軍団全体の維持管理は、全て国家がこれを提供している」。政府は2022年5月から23年5月の間だけで860億ルーブル(現在のレートで約1320億円)を超える資金をワグネルの部隊の維持管理に割り当てた。
問題は法の支配に対するプーチン氏の傲慢(ごうまん)な姿勢にとどまらない。それにより改めて思い起こすのは、同氏が真実の見えなくなった世界における先駆者に他ならないという点だ。
ここで思い出しておきたいが、プーチン氏はロシアの特殊部隊(いわゆる「リトル・グリーンメン」)が14年にウクライナからクリミア半島を奪取したことも否定していた。占領からわずか数週間後、同氏は記章のない迷彩服を身につけたこれらの部隊が実際にはロシア軍の兵士だったことを認めた。彼らは「現地の自衛部隊」などではなかった。
同じことは、ロシアが14年以降ひそかに支援するウクライナ東部ドンバス地方の分離派組織にもいえる。クレムリンは、ロシアの正規軍がこうした分離派の支配地域を支援したことはないとする作り話を一貫して主張してきた。ただプーチン氏は、ロシア政府がドンバス地方に関与していることをあっさりと認めている。具体的には分離派勢力への支援や捕虜交換などだ。
「我々はそこに誰もいないと言ったことは一度もない。軍事の領域を含め、特定の問題に対処する人々がそこにいないと言っているわけではない。ただそれはロシアの正規軍の存在を意味するものではない」。15年、年次の記者会見でプーチン氏はウクライナのジャーナリストにこう語った。「違いを感じてほしい」
ワグネルを率いるプリゴジン氏も、事実をいい加減に扱うことでよく知られる。プーチン氏と近い関係にあった時期もあるプリゴジン氏は、インターネット・リサーチ・エージェンシーと呼ばれるロシア企業が16年米大統領選への干渉に関与したことを長い間認めなかった。同氏が立ち上げたこの企業はロシア・サンクトペテルブルクに拠点を置き、インターネット上で否定的な書き込みを拡散する「トロール工場」として悪名を馳(は)せている。そんなプリゴジン氏だが結局、ウクライナへの全面侵攻後は見え透いたごまかしを口にするのをやめた。
今年2月には同社設立の意図について、西側による反ロシアのプロパガンダからロシア人の情報空間を守るためだったとの見解を示している。