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ロシアと北朝鮮が新たな「同盟」 中国は警戒しながら注視

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平壌での歓迎式典で高級車に乗るロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記/Gavriil Grigorov/Pool/AFP/Sputnik/Getty Images

平壌での歓迎式典で高級車に乗るロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記/Gavriil Grigorov/Pool/AFP/Sputnik/Getty Images

香港(CNN) ロシアのプーチン大統領は先週、訪問先の北朝鮮で、最高指導者の金正恩(キムジョンウン)総書記とともに高級車に乗って、人々が立ち並ぶ平壌の通りを走り抜けた。この2人の独裁者にとって最も重要なパートナーは何百キロも離れた北京でその様子を見守っていた。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は5年前、中国の指導者として14年ぶりに訪朝した際、同じようにオープントップの車両に乗るよう提案された。習氏と金氏は当時、関係の強化と協力の深化を約束したが、今回、金氏とプーチン氏が結んだ「画期的」で新たな協力関係に比べれば、その言葉は精彩を欠いたものだった。

ロシアと北朝鮮は今回、政治から貿易、投資、安全保障上の協力など幅広い分野で合意し、いずれかの国が攻撃された場合には、利用可能なあらゆる手段を用いて、直ちに軍事支援を提供することを約束した。

プーチン氏は、両国がその絆を「新たな水準」に高めたと述べた。一方、金氏は、新たな「同盟」が両国関係の「分岐点」だと語った。

いずれも核兵器を保有するロシアと北朝鮮が合意した新たな防衛協定によって、米国やアジアの同盟国には動揺が走った。日本は、プーチン氏が軍事技術をめぐり北朝鮮政府との協力を排除しないと表明したことについて、「深刻に憂慮」していると述べた。韓国は、緊急の国家安全保障会議を開催し、ウクライナへの武器の供与を検討すると明らかにした。

これとは対照的に、中国からの反応はほとんどない。中国はロシアと北朝鮮にとって重要な政治的・経済的支援国だ。

中国外務省の報道官は、ロ朝間の新たな条約について、ロシアと北朝鮮の二国間の問題だとして、コメントしなかった。

中国の当局者は沈黙を保っているが、専門家は、中国が警戒心を持って注視している可能性が高いとの見方を示す。

中国の狙いは「状況のコントロール」

2人の独裁者の関係の深化は、習氏にとって新たな不確実性を生み出す危険がある。習氏は、特に景気の減速など国内のさまざまな課題に取り組むなか、北東アジアの平和と安定を必要としている。

中国政府は、ロシアによる北朝鮮への支援をめぐり、特に軍事技術分野での支援によって、不安定な金政権が核兵器とミサイルの開発計画を大幅に加速させ得ることになるのではないかと懸念している――。そう指摘するのは、香港城市大学で中国政治が専門の劉冬舒助教だ。

劉氏は「北朝鮮問題に関して言えば、中国は状況をコントロールし、エスカレートするのを防ぐことを目的としているものの、北朝鮮が完全に崩壊することも望んでいない」と指摘。中国政府が恐れるシナリオは米国が自国の目前まで支配を拡大することだとの見方を示す。

ロシアはこれまで、北朝鮮をめぐる問題では中国とほぼ足並みをそろえてきたものの、ウクライナでの消耗戦を支えるために北朝鮮を切実に必要としており、その微妙なバランスが崩れる危険性がある。

2019年、14年ぶりの訪朝時に金正恩氏(右)とオープントップの車両に乗る習近平氏/KCNA/Reuters/File
2019年、14年ぶりの訪朝時に金正恩氏(右)とオープントップの車両に乗る習近平氏/KCNA/Reuters/File

米国の2月の発表によれば、ロシアは昨年9月以降、北朝鮮から、26万トンの軍事物資または軍事関連物資に相当する1万個以上の輸送コンテナを受け取っている。ロシアも北朝鮮もこうした指摘を否定している。

米国は中国について、ロシアの軍産複合体を強化するための軍民両面で使える「デュアルユース」製品を提供していると非難している。中国政府は、プーチン氏に直接、軍事援助を提供することは控えているほか、金氏の核・ミサイル開発計画への支援も避けている。

「プーチン氏が何らかの技術的支援を含めて核問題について北朝鮮にさらなる支援を提供すれば、中国が朝鮮半島情勢をコントロールすることはさらに困難になる」(劉氏)

プーチン氏と金氏が今回交わした相互防衛の条約は1961年に北朝鮮とソ連(当時)が冷戦時に結んだ条約にさかのぼる。この条約はソ連崩壊後、はるかに緩やかな安全保障の条約に置き換えられた。

北朝鮮はやはり61年、中国と中朝友好協力相互援助条約を結んでおり、この条約は現在も生きている。

中朝友好協力相互援助条約は中国が他国と締結した唯一の正式な軍事同盟の条約だ。中国政府はこのことを認めておらず、戦争が勃発した場合に中国が自動的に北朝鮮を防衛する義務があるのかどうかについては意図的にあいまいなままにしている。

同様に、ロシアと北朝鮮が新たな防衛協定の下で、お互いに何をするのか、そして何ができるのかは依然として不透明だ。

金氏の発言が激しさを増し、韓国との平和的な統一を模索する長年の政策が破棄されたことで、朝鮮半島では緊張が高まっている。朝鮮戦争は53年に休戦に至ったが、北朝鮮と韓国の間では正式な和平条約は結ばれておらず、厳密に言えば、両国は依然として戦争状態にある。

新条約の政治的なメッセージは明確だ。米国とその同盟国に対する共通の敵意に突き動かされ、ロシアと北朝鮮は西側主導の世界秩序を弱体化させて、それに代わるものを作り出そうとしている。これは、中国にとっても共通の目標だ。

プーチン氏は金氏との首脳会談後、自身が呼ぶところの「米国とその衛星国の帝国主義政策」にいら立ちを示した。

今年5月16日、北京の国家大劇院で並んで座るロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席/Alexander Ryumin/Pool/AFP/Getty Images
今年5月16日、北京の国家大劇院で並んで座るロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席/Alexander Ryumin/Pool/AFP/Getty Images

1カ月前、プーチン氏と習氏は、プーチン氏の訪中の際に米国に対して同じような批判を行った。包括的な共同声明の中で、「親愛なる友人」の2人は米国が支援する軍事同盟によって定義された世界的な安全保障制度とされるものに狙いを定め、それに対抗するために協力することを約束した。

西側の専門家からは、中国とロシア、北朝鮮、イランの間で、緩やかながらも拡大する利害関係の調整をめぐり警戒する声が出ている。米軍幹部は先ごろ、こうした関係を新たな「悪の枢軸国」にたとえている。

香港城市大学の劉氏によれば、ロシア政府と北朝鮮政府が同盟関係を深めるなか、中国政府は用心深く距離を置いており、「中国は新しい枢軸国の一員と見られたくないのは確かだ」と指摘した。

習氏が不在だったにもかかわらず、プーチン氏と金氏との首脳会談では一貫して中国が存在感を示していた。

英オックスフォード大学の講師で朝鮮半島情勢に詳しいエドワード・ハウエル氏は「このような会談では中国についての議論も行われる」と指摘した。

「ロシアは、中国が北朝鮮に関係する実質的な交渉から外されることを望んでいないことを十分に承知している。北朝鮮にとって、中国はロシアよりもはるかに重要だからだ」(ハウエル氏)

米シンクタンク、スティムソンセンターの中国プログラムのディレクター、ユン・スン氏は、中国は、ロシアと北朝鮮が関係を深化させる速度や範囲を制御できるとは感じていないと指摘する。

「しかし、中国がロシアと北朝鮮の双方にとって替えがきかない役割を果たしていることは知っている」(スン氏)

中国は依然としてロシアと北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、厳しい制裁を受けている経済にとって重要な生命線となっている。中国政府はまた、国際社会からのけ者扱いされている両国に対して多大な政治的支援と外交的援護を与えている。

香港城市大学の劉氏は「中国は、ロシアと北朝鮮の同盟が裏切りだとは考えていない」と指摘。「両国はいずれも中国を裏切れる力はない。同盟関係にもかかわらず両国は依然として中国に依存しなければならない」

本稿はCNNのネクター・ガン記者の分析記事です。

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