ANALYSIS

孤立とは程遠いプーチン氏、BRICS首脳会議を自国で開催

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南アで開催された昨年のBRICS首脳会議にバーチャルで出席したプーチン大統領/Marco Longari/AFP/Getty Images

南アで開催された昨年のBRICS首脳会議にバーチャルで出席したプーチン大統領/Marco Longari/AFP/Getty Images

(CNN) ロシアによるウクライナ侵攻から3年近くが過ぎ、ロシア政府に世界各国から非難の声が上がる中、同国のプーチン大統領が十数カ国以上のリーダーを集めて首脳会議を開催している。自身は全く孤立しておらず、支えてくれる国々による連合が生まれつつあることを示す強いメッセージを打ち出した形だ。

3日間の日程で行われる新興国グループ「BRICS」の首脳会議は22日、ロシア南西部の都市カザンで開幕した。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成されていた従来のBRICSは今年、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、イランを加えて拡大した。今回は拡大後に開かれる最初の首脳会議となる。

プーチン氏は22日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、その後で両国の提携がBRICS加盟国の関係構築のモデルになるべきだと主張した。

首脳会議にはこの他、インドのモディ首相、イランのペゼシュキアン大統領、南アフリカのラマポーザ大統領らが出席。加盟国以外からもトルコのエルドアン大統領をはじめ複数の首脳が参加する見通しだ。ブラジルのルラ大統領は、国内での負傷を理由に出席の予定を取りやめた。

2022年2月の戦争開始以降、プーチン氏が主催する国際会議としては格段に規模の大きなものとなる。結束に拍車がかかる当該の国々は、地球規模で起こる勢力均衡の変化に期待を寄せる。またロシア、中国、イランの各国政府にみられるように、米国主導の西側諸国に直接対抗する意向も示している。

プーチン氏並びに習氏ら近しい連携相手の首脳が3日間の会議で打ち出すとみられるのは、後者のメッセージに他ならない。つまり経済制裁と同盟によって孤立しているのは西側の方であり、「グローバル・マジョリティー(世界の多数派)」に属する国々は、米国による世界主導に異議を唱える自分たちの取り組みを支持しているとの内容だ。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席(左)と会談したロシアのプーチン大統領=22日/Alexander Zemlianichenko/AP
中国の習近平(シーチンピン)国家主席(左)と会談したロシアのプーチン大統領=22日/Alexander Zemlianichenko/AP

18日の記者団への発言で、プーチン氏はBRICS加盟国の経済的、政治的影響力の増大を「否定できない事実」と称賛。BRICSの加盟国と同グループに関心を寄せる国々が連携すれば、「新たな世界秩序の重要な一要素となるだろう」と語った。ただBRICSが「反西側を掲げる同盟」だとの見方は否定した。

独ベルリンに拠点を置くカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレックス・ガブエフ所長は、「BRICS首脳会議は、まさしく(プーチン氏にとっての)贈り物だ」と指摘。各国のリーダーがカザンを訪れている状況にあって、ロシアの世界的な孤立を議論できないことが明らかになったと示唆した。

とはいえ、会議に参加する首脳らの観点、関心は多岐にわたることから、BRICSとして統一されたメッセージを発するのには実際のところ限界があるというのが識者の見方でもある。とりわけプーチン氏の望んでいるとみられる形での発信についてはそうだという。

BRICS首脳会議に出席した各国首脳=2019年11月、ブラジル・ブラジリア
/Adriano Machado/Reuters
BRICS首脳会議に出席した各国首脳=2019年11月、ブラジル・ブラジリア /Adriano Machado/Reuters

グローバルな危機

ロシアが主催する今回のBRICS首脳会議は、南ア・ヨハネスブルクで開かれた昨年とは非常に対照的だ。当時プーチン氏はビデオのスクリーン越しの出席で、直接会議に参加することが出来なかった。ウクライナを巡る戦争犯罪の罪に問われ、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ていたためだ。

今年は、激しさを増すウクライナでの戦争に加え、中東での紛争拡大も首脳らの中心的な議題になる公算が大きい。中東ではイスラエルがイランの代理勢力との戦いを繰り広げている。

プーチン氏は先週、パレスチナ自治政府のアッバス議長がBRICS首脳会議に出席することを確認した。プーチン氏とロシアの当局者らは、中東紛争を使って米国による支配のない新たな世界秩序についての議論を進める公算が大きいと、専門家は指摘する。グローバルサウス(主に南半球の新興・途上国)の間では、米国及び同国のイスラエル支持に対する怒りが広がっている。

中ロ両国は中東情勢に関して停戦を呼び掛け、イスラエルの行動を批判している。一方の米国はイスラエル側に立ち、ガザにおけるイスラム組織ハマス、レバノンにおけるイスラム教シーア派組織ヒズボラへの報復権を擁護する。

米シンクタンク、大西洋評議会の非常駐上級研究員でアブダビを拠点とするジョナサン・フルトン氏によれば、BRICS首脳会議に出席する国々の多くは中東での紛争について、自分たちがなぜ影響力を高める必要があるのかを示す第一の事例と捉えている。ただこういった国々は大抵、自分たちの気に入らない事柄を批判する口実に紛争を利用しているのであり、「問題を解決へと導くことには関心を示さない」という。

この他、中国とブラジルがBRICS首脳会議の場でウクライナ危機に対する合同の和平構想を打ち出すのかどうかにも注目が集まりそうだ。両国は先月の国連総会でこの構想を発表したが、ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを痛烈に批判。当該の構想はロシア政府を利するものだとし、中ロ両国に対して自分たちの影響力を高めるためにウクライナを犠牲にするのは認めないとの考えを示していた。

一方、プーチン氏はカザンでの会談を通じ、BRICSの各国首脳やその他友好国の代表団らと個別に協議する機会を数多く得ることになる。

ロシアの無人機による攻撃を受けたアパートの前に立つ地元住民=4月、ウクライナ北東部ハルキウ/Yevhen Titov/Reuters
ロシアの無人機による攻撃を受けたアパートの前に立つ地元住民=4月、ウクライナ北東部ハルキウ/Yevhen Titov/Reuters

アイデンティティーの危機

BRICS首脳会議の参加国はこの数日で経済やテクノロジー、財務における協力の道筋を探る公算が大きい。具体的な領域はエネルギーから衛星データの共有など多岐にわたる。

しかし同時に、各国は各自が抱える課題の分裂、相違に苦慮するともみられる。この点で専門家らは、BRICSとして達成できる内容には限界があるとの見解を示す。

加盟国が拡大した現在、地政学的な断層の深まりはBRICSのアイデンティティーや方向性を一段と複雑にしているという。ロシア政府によればBRICSへの参加もしくは協力に関心のある国は30カ国を超えている。

印ベンガルール(バンガロール)に拠点を置くタクシャシラ研究所でインド太平洋研究を統括するマノジ・ケワルラマニ氏によると、BRICSの新たな加盟国もしくは加盟に前向きな国々は、中国とロシアが本質的に掲げる構想と西側諸国との二者択一を望んではいない可能性がある。こうした国々が模索しているのはあくまでも自国経済の成長であり、「イデオロギーに左右されない実利的な形での関与」だという。

本稿はCNNのシモーン・マッカーシー記者による分析記事です。

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