「米国第一」の貿易政策に堂々反論、カナダ・オンタリオ州首相はどんな人物か
「一人のせいで大混乱」、カナダ州首相がトランプ氏の関税政策を批判
(CNN) トランプ米大統領の2期目が始まって以降、カナダの政治家ダグ・フォード氏(60)は、同大統領が掲げる「米国第一」の貿易政策に対して最も声高に異議を唱える国外の論客の一人となっている。
カナダ・オンタリオ州の州首相を務めるフォード氏は、今や米国のケーブル局の至る所に登場し、同国の対カナダ関税に反論。一方で米国民に向け「カナダは売り物ではない」とも強調している。カナダに対し米国の51番目の州となるよう求めるトランプ氏の脅迫を真っ向から否定する形だ。
カナダ最大の人口を抱える州のリーダーが、どのようにしてトランプ政権と対峙(たいじ)する同国の旗頭の一人となったのか、以下に記述する。
政治一家
フォード氏はオンタリオ州の有力な政治一家の家庭に生まれた。父親は州議会に携わり、兄のロブ・フォード氏はトロント市議会で10年以上活躍した。
2010年にロブ氏がトロント市長になると、ダグ氏が空いた市議会議員の座に立候補し、当選した。ところがトロント市長に就任して3年目、兄のロブ氏はクラックコカイン(煙草で吸引できる状態にしたコカインの塊)を吸っているところを動画に撮られてしまった。
ロブ氏は薬物の使用を認めたものの辞任は拒否。このため名声に傷がつき、休職に追い込まれた。その後リハビリを行い、14年にはトロント市議に復帰したが、16年にがんで死去した。
2年後、ダグ・フォード氏はオンタリオ州の中道右派政党の党首選に立候補して勝利する。党はその年の選挙を制し、同氏は州首相に就任した。
歯に衣着せぬ物言いと党派を超えた政権運営
オンタリオ州政府を率いた当初、フォード氏は自らの幅広いビジネス経験を強調。エリート層を指して「小さなグラスのシャンパンを、小指を立てながら飲む連中」とこき下ろすコメントも発している。
フォード氏の歯に衣着せぬ物言いと、政府による「税金を使ったパーティー」を終わらせるとした選挙時の公約は、多くの面でトランプ氏に重なる。フォード氏は16年に地元紙の取材に答え、米国の大統領になるならトランプ氏の方が「腹黒いヒラリー」よりずっとましだと語っている。
一方、州首相として超党派で取り組む姿勢は、フォード氏の州内での人気を押し上げることになった。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の最盛期、フォード氏はトルドー首相率いる自由党と親密な関係を築いた。
カナダの反関税の顔に
所属政党が1月に公開した報道向け発表によれば、フォード氏が州首相再選を目指す上で掲げた公約は、とにかくトランプ氏の関税からオンタリオ州を守るというものだった。先月下旬、フォード氏は3期連続の当選を果たしている。
トランプ氏の保護主義の影響に関して、フォード氏はとりわけ敏感だ。オンタリオ州の経済は米国と高い次元で一体化している。送電網でつながる他、毎年の貿易額も数千億ドル規模に達する。
過去1カ月間何度も出演したテレビ番組で、フォード氏は次の言葉からインタビューの受け答えに入ることが多かった。「カナダ人は米国人が大好きだ」
昨年12月には広告まで立ち上げ、米国の消費者に向けてオンタリオ州は彼らにとっての「北の盟友」であり、熱心な貿易相手だと呼び掛けている。今月9日にはCBSの取材に答え、オンタリオ州として新たな広告シリーズを開始し、トランプ氏の関税政策を攻撃する考えを明らかにした。
そうした広告費にいくら投じるつもりかと11日に記者団から問われると、貿易戦争を阻止すれば結果的にカナダにとっては「数百億ドル」の節約になると答えた。
トランプ氏がカナダとメキシコへの関税を発表すると、フォード氏は複数の州首相らと共に、州内の酒店から米国の酒類を排除するよう指示。州民に対して「カナダ産を買おう」と呼び掛けた。
またトランプ政権に深く関わる起業家イーロン・マスク氏の手掛ける衛星通信サービス「スターリンク」とは、州との間で結んでいた契約を打ち切った。その他の米国企業についても、オンタリオ州政府との間で業務関係を結ぶのを禁じている。
フォード氏はしばしば「Canada Is Not For Sale(カナダは売り物ではない)」との文言が入った野球帽をかぶっているが、これはトランプ氏のトレードマークとなった「MAGA(トランプ支持者のスローガン『Make America Great Again<米国を再び偉大に>』の頭文字)」の文字入りの野球帽を彷彿(ほうふつ)させる。
積極的なメディアへの出演を通じ、フォード氏は米国民へのアピールに余念がない。米国には交渉のテーブルに戻ってくるよう強く訴え続けている。
11日にはCNNの取材に対し「国境の両側で血を流すのはやめよう。どちらも中国の笑い者になっている。腰を落ち着けて、両国にとって公平な貿易について交渉しよう。そうすれば誰もが得をする」と主張した。