W杯予選に臨むパレスチナ代表チーム、戦禍のガザで子どもたちに希望
(CNN) 現代のサッカー界で心の琴線に触れるのは、選手のフィールドでの活躍ばかりではない。サッカーのワールドカップ(W杯)予選試合を目前に控えてパレスチナのサッカー協会が公開した代表チーム選考の動画は、それを物語っている。
映っているのはガザに積み重なるがれきの山。子どもたちは海岸で、がれきと化した都市の中で、露店で、授業が行われているテントの中で、代表選手の写真を見つける。
カンバスに入ったDFムサブ・バタットの写真は海岸の岩の上で発見され、FWオデイ・ダッバーグの写真はがれきの中から拾い上げられた。CBミラド・テルマニーニの写真は仮設給水所の缶の間にあった。
楽しそうに写真を集める子どもたちの姿と並行して映るのは、イスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦争がもたらした惨状の光景だ。国連によれば、この戦争でパレスチナ人4万8000人以上の命が奪われた。
子どもたちは全ての写真を集めて26人の代表チームを完成させると、自分たちが使う錆(さ)びついたゴールのフレームにかけていく。
パレスチナサッカー協会はCNNスポーツの取材に対し、この衝突でサッカー選手や関係者408人が死亡したと語った。大半は未成年だった。撮影は危険だったが必要だったとスーザン・シャラビ副会長は言う。
「代表チームがガザの子どもを笑顔にできるなら、その価値はあった。動画に登場する(子どもたちは)まだ希望を持っているから撮影を望んだ。何よりもまず、子どもたちのためだった」
ガザにあるサッカー協会の事務所は破壊されたり激しく損傷したりしているが、残ったものを使って家を失った家族を受け入れているという。
パレスチナ代表チームの動画は、ガザの惨状の中でも市民が自分たちの置かれた状況を最大限に活用する姿を映し出す。
「ガザの人々はジェノサイド(集団殺害)にさらされながらも、国家として生きる意志を持ち続けている。代表チームは、ほかの国と同じように太陽の下で平和に暮らしたいと願う私たちの切望のシンボルになった」(シャラビ副会長)
パレスチナは国連加盟国の75%が主権国家として承認しているが、米国に正式加盟を阻まれ続け、国連総会では今も非加盟のオブザーバー国家にとどまる。しかしサッカーチームは1998年、国際サッカー連盟(FIFA)に承認された。アジア杯には過去3回出場しているが、W杯進出は果たしていない。
代表チームが目指すのはW杯出場だけではない。動画に込めたメッセージについて、シャラビ副会長はこう語った。「パレスチナ、特にガザで起きていることは私たちをさいなむ」「国民として、国家としての私たちをかき消そうとする占領を私たちは耐え忍んでいる。それでも伝説のカナンの不死鳥のように、私たちは灰の中から立ち上がる。たくましく、この土地に深く根を下ろし、間違いなく生きている」