NASA、レーザー実証装置を打ち上げ 宇宙通信に革新もたらす可能性
(CNN) 宇宙空間で不可視のレーザーを使用する計画はまるでSFの世界のことのように聞こえるかもしれないが、これは現実だ。
米航空宇宙局(NASA)の「レーザー通信中継実証装置」は、太陽系各地で行われる将来のミッションとの通信のあり方に変革をもたらす可能性がある。
NASAによると、これらのレーザーを使うことで、かつてない高解像度の動画や写真を宇宙から送信できるようになる可能性があるという。
実証装置は米東部時間の7日午前5時19分、国防総省宇宙試験プログラムの人工衛星に搭載されてフロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられた。打ち上げはもともと5日に予定されていたが、ロケット推進剤の地上貯蔵システムで漏出が見つかり日程が変更となった。漏出は7日の打ち上げ前に修復された。
NASAは1958年以来、飛行士や宇宙探査機との交信に電波を使ってきた。電波の有効性は実証済みだが、宇宙ミッションはかつてなく複雑になり、収集する情報も増えている。
赤外線レーザーの特徴をつかむには、遅くてイライラするダイヤルアップとは対照的な光通信の高速インターネットを思い浮かべれば良い。レーザー通信なら地表上空3万5406メートルの対地同期軌道から、毎秒1.2ギガバイトのスピードでデータを送信できる。これは映画丸1本を1分未満でダウンロードする速度に相当する。
これによりデータ伝送速度は電波の10~100倍に向上する。我々の目に見えない赤外線レーザーは電波より波長が短いことから、一度により多くのデータを送信できる。
現在の電波システムを使った場合、火星の完全な地図の送信に要する時間は9週間だが、レーザーなら9日間で送信できる可能性がある。
この「レーザー通信中継実証装置」は、宇宙からカリフォルニア州テーブルマウンテンとハワイ州ハレアカラにある光地上局2カ所へとデータを送受信するNASA初の端末間レーザー中継システムとなる。これらの地上局には、レーザーから受け取った光をデジタルデータに変換する望遠鏡がある。
地上のレーザー受信施設にとって一つ障害になるのが雲や乱気流といった大気の乱れで、大気中を伝わるレーザー信号に干渉する場合がある。受信機2基の設置場所に遠隔地が選ばれたのはこれを念頭に置いた対応であり、どちらも標高が高く気象条件が良いことが決め手となった。
人工衛星が軌道に到着すると、ニューメキシコ州ラスクルーセスの運用センターのチームがレーザー通信中継実証装置を作動させ、試験データを地上局に送信する準備を整える。
実際に宇宙ミッションの支援を開始するまでには2年間の試験や実験が必要となる。国際宇宙ステーション(ISS)には将来的に光通信装置が搭載され、科学実験のデータを人工衛星を介して地球に送ることが可能になりそうだ。
実証装置が中継衛星の役割を果たすことから、将来の探査機が地球への直接の照準線を備えたアンテナを搭載する必要はなくなる。これにより、将来の宇宙機の通信に必要なサイズや重量、動力の条件が緩和され、打ち上げ費用の低減や観測機器を積むスペースの拡大につながる可能性があるという。