米スパイ衛星からの写真で判明、ローマ帝国が砦を建設した真の目的とは
(CNN) 冷戦時代に米国のスパイ衛星が撮影し、現在は機密解除された写真に、考古学的に極めて貴重な遺跡が写っていた。現在のイラクとシリアに存在した、これまで知られていなかった古代ローマ時代の何百もの砦(とりで)だ。
この砦の多くは、農業の拡大、都市の発展、戦争により、過去数十年間に破壊されたり、損傷し、現在は完全に失われている可能性もある。
しかし、これらの砦の存在が明らかになったことにより、1930年代に確立したよく知られる仮説の真偽が問われている。この仮説は古代ローマ帝国の東部国境沿いに設置されたそれらの砦が果たした役割に関するもの。このほど研究者らが、考古学の学術誌「アンティクィティ」の中で、仮説の真偽についての報告を行った。
衛星からの視点で見ると、無数の砦が広範囲に分布しているのが分かる。この配置を考えると、これらの砦が敵を寄せ付けないために建てられたとする数十年前の理論は誤りである可能性がある。
むしろ、これらの砦は、キャラバンや旅行者たちが安全に通行できるように、非軍事の交通が多かった道沿いに建設された可能性が高い。
研究論文を執筆した研究者らも、この砦はあくまで街の一部や安息所であり、敵対的な障壁ではないとしている。
冷戦時代に米国のスパイ衛星ヘキサゴンとコロナによって撮影された画像には、その後、農業の拡大や都市の発展などにより著しく破壊された風景のスナップ写真が含まれており、考古学者らにとって極めて貴重だとジェシー・カサナ氏は言う。カサナ氏は米ニューハンプシャー州にあるダートマス大学・人類学部の考古学者で、今回の研究論文の主要執筆者でもある。
正しいのは衛星写真か、ポワドバール氏か
研究チームは、古代ローマ時代の砦らしきものを発見しようと画像の隅々まで調べた。古代ローマの砦は特徴的な正方形をしており、通常、長さ50~80メートルの壁がある。
科学者らは、1920~30年代にフランスの考古学者でイエズス会の宣教師でもあるアントワーヌ・ポワドバール神父が行った同地域の航空調査によって作成された参照マップを使って調査を開始した。
この調査は、上空からの考古学的遺跡の撮影に世界で初めて成功した事例の一つで、ポワドバール氏は34年に116カ所のローマ時代の砦を発見したと報告した。
ポワドバール氏によると、これらの砦は、ローマ帝国の最東部の境界に沿って南北に配置されていたという。ポワドバール氏は、これらの砦が東からの敵の侵入を阻止する目的で設置されたのは明らかだと主張した。