東南アジアから消えゆく野生のトラ、タイの保護活動に希望
パトロール隊はGPSで正確な場所を特定し、標準化された書式を使って収集したデータをパトロールルートの決定や野生生物の分布の把握、違法行為の現場特定に役立てている。
07年には自動撮影カメラを設置してデータを収集し、三つの主要保護区をまたぐ個体数の把握に利用できるようにした。個々のトラは、人間の指紋に似たそれぞれ固有のしま模様で識別できる。
トラの個体数が3.5倍になり、バンテンや鹿の仲間のサンバーが2倍に増えたのは、パトロールの強化が奏功している証しだとジョーンブロム氏は言い、「トラの保護は、獲物だけでなく生息地も含めて他の多くの種の保護につながっている」と指摘した。
保護依存種
タイの保護活動の成果には希望が持てる。しかし東南アジア全体では楽観視できない状況にある。
かつて東南アジア全体に広く生息していたトラは、シンガポールとインドネシアのジャワ島、バリ島で20世紀に絶滅し、近年ではベトナム、ラオス、カンボジアでも野生の個体が姿を消した。
残る少数はミャンマー、インドネシアのスマトラ島、マレーシアの半島部に孤立した状態で生息しているが、マレーシアでは野生のトラが死んでいるのが相次いで発見され、保護活動家が危機感を強めている。
世界自然保護基金(WWF)のステュアート・チャプマン氏によると、トラは狩猟や密猟などから守るために継続的な介入を必要とする「保護依存種」にあたる。東南アジアでは個体数が極めて少なく、事故や病気、紛争などによって絶滅しかねない瀬戸際の状況にある。
西部森林地帯の発表についてチャプマン氏は、「何十年も保護活動を継続してこうした結果を出したタイは素晴らしい」と評価する。
タイ国立公園局の最新調査によると、タイの野生のトラの個体数は179~223頭と推定され、22年の148~189頭に比べて増加した。
パトロールをさらに強化して資金が増えれば西部森林地帯のトラは増え続けるとジョーンブロム氏は言い、「タイだけでなく、近隣国でも自然や保護区への介入モデルとして大いに参考になると思う」と期待を寄せている。